羊皮紙を広げれば、脂の匂いが香る。入学してからずっと慣れ親しんできた匂い。ダイアゴン横丁で買ったばかりの羽根ペンをインクに浸し、紙に刻み込むように書いていく。
 今日出された宿題は、ルーン文字の文書を翻訳するというものだ。最初は難解だったルーン文字も、今や対応表を見ずとも翻訳できるようになった。日々努力していれば自ずとできることは増えていく。それは勉強においても、スポーツにおいても、何にでも言える。あいにくハーマイオニーはクィディッチには向いていなかったが、代わりに呪文や新しい言語を吸収する頭脳があった。
「まだ寝てなかったのか」
 突然掛けられた声に、ハーマイオニーは肩を揺らす。男子寮からロンが下りてきていた。
「ああ、ロン。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、君が寝たかどうか気になって来たんだ。最近根詰めて勉強してるし」
 心配してくれたロンに、ハーマイオニーは驚いた。それから気恥ずかしくなり、羊皮紙に目を落とした。
「……ありがとう。そろそろ終わるから大丈夫よ」
「本当に? というかハーマイオニー、どうやってそんな多くの授業に出てるんだい?」
「それは……私が全部の授業に出れるように頑張ってるからよ」
「答えになってない」
 ロンは納得していなかったが、こちらが答える気がないとわかったようで、ソファから立ち上がった。
「……とにかく、早く終わらせて寝ろよ。最近隈が出来てるぞ」
「わかった」
 男子寮へ上がっていくロンの背中に、「おやすみ」と声をかけると、ロンは振り向き軽く手を振った。
 姿が見えなくなったところで、再び羽根ペンをインクに浸し、続きを綴る。タイムターナーに関して、マクゴナガル先生は口外してはいけないと言っていた。たとえ相手がロンでもハリーでも、話すことは出来ない。
 タイムターナーの使用が許可されたのは、全教科を学びたいという自分の熱意からだった。優秀な生徒と評価をもらっていることもあり、マクゴナガル先生はそれを貸してくれた。だから、先生の言うことは守らなければいけない。
 ハーマイオニーは魔法界における全てのことを学びたかった。魔法使いに生まれたのなら、魔法の全てを理解し、習得したかった。この知識欲は誰にも負けないし、誰にも止められない。
 マグル生まれだからといって、軽蔑する者もいる。ただ、マグル生まれだからできないのだというレッテルを貼るのは間違っている。凝り固まった頭でしか人やものを量れない者は、可哀想な人間だとハーマイオニーは思う。そんな差別をしている暇があったら、少しでも自分を賢くするための努力をすればいいのに。

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