ハリー・ポッターの証言

 スネイプ先生は……とても良い先生でした。どこが? うーん……授業がわかりやすかったです。あと? あとは……そうだな……あの厳しさはホグワーツに必要だったんじゃないかと思います。
 ええ、二重スパイをしてましたね。その理由、ですか? それは……わかりません。僕にわかることは、スネイプ先生がホグワーツの教師で、同時にヴォルデモートの二重スパイをしていたということだけです。
 子供にセブルスと名付けた理由? それは、彼の勇気を称えて名付けました。彼はヴォルデモートの陣営に入り、実際に出し抜いていたのですから――僕も彼がヴォルデモート側だと思っていたこともありました。知らずに「臆病者」と言ったこともありましたね……あれは反省してます。
 ……ええ、彼の死に際に立ち会えたのはよかったと僕も思ってます……そうですね、僕は彼からその時記憶を受け取りました。確かに、僕は彼の記憶を見ました。そこに二重スパイになった理由があったんじゃないかって? 僕には……何も言えません。これはスネイプ先生にとって、隠したいことかもしれないので。何も伝えられません。ただひとつ言えるのは、彼は二重スパイをしていた、最も勇気のある人だということだけです。


 スネイプ氏がよく訪れていた薬問屋の主の証言

 ええ、スネイプ先生はよくここに来て材料を買って行ってくれましたよ。話は……特にしませんでしたねえ。ただ、私がユニコーンの角入ったよ、なんて言って、スネイプ先生が頷くくらいでしたね。
 ……二重スパイ、そうみたいですね。私にはなんとなくわかってました。どうしてかって? そりゃあ、あの方には昔から影がありましたけど、私は味方だと思ってたからね。デスイーターをやってた時もあるみたいですけど、ダンブルドア先生に雇ってもらって、あの大先生を裏切ることはないと思ってました。スネイプ先生はちゃんと授業のことを考えて仕入れに来てたからね。すっかり心を入れ替えたような印象かね。
 二重スパイをしてた理由? そんなの、私にわかるわけないじゃないか。ポッターさんにでも聞かなきゃわからないんじゃないかね? え? なんだい、ポッターさんにはぐらかされたのか。それであんたは私のとこに来たわけかい。ははっ、悪いけど私にはわからないねえ。ただ、あの方は悪い人じゃなかったよ。本当に。


 スネイプ氏に教わっていた卒業生の証言

 はい、私は七年間、スネイプ先生に魔法薬学を教わってました。もう十年以上前になるので、スネイプ先生のことを聞かれても、もしかしたら記憶が定かではないのですが……ええ、知ってます。ハリーくんがスネイプ先生が二重スパイだったと明らかにしたんですよね。私、嬉しかったんです。ホグワーツの知っている先生がこちらの味方だったということが……それに、実は私、学生時代スネイプ先生に恋心を抱いていて……それで、勝手に嬉しくなったりしたんです。
 スネイプ先生のどこに惹かれた? えっ、それ、聞きます? うーん……もう十何年も前ですけど、スネイプ先生はほら、影がある人で大人って言う感じで……要するに、周りにいる大人の年頃の男性が彼だったという訳です。ほら、あの年頃って大人の男性に憧れを持ちやすいじゃないですか。私もそれだったんです。
 話をしたことはほぼないですね。ええ、話をしてなくても勝手に好きになってました。あの頃って不思議ですねえ。私はレイブンクローでどちらかと言うと虐げられてたんですが、魔法薬学は先生のために頑張って勉強してたのでそんなに交流もなかったです――グリフィンドールとかスリザリンだったらチャンスがあったかもしれませんね。えっ、どうしてグリフィンドールがって……知らないんですか? スネイプ先生はグリフィンドールを毛嫌いしてたんですよ、かなり。それは……たぶんスリザリン出身だからですかねえ? わからないです。
 スネイプ先生について印象に残ってること? うーん……なんだろ――あ、一つだけ覚えてることがあって、アモルテンシアの授業の時、スネイプ先生は鼻と口をローブで覆ってたんです。表情はいつもの無表情でしたけど、それを見て私は、あ、スネイプ先生にもそういう相手がいるのかなと思いました。単なる妄想ですけど。そしてまた勝手に落ち込んだりして……青春でしたね。
 二重スパイの理由? それは私にはわからないです。ハリーくんは言ってなかったんですか? 彼がわからなければ、誰もわからないですね。私が言えるのは、私にとってスネイプ先生は尊敬する大人だったということです。


 スネイプ氏と同級生だったスリザリンの男性の証言

 あいつの名前を俺の前で出すなんて、覚悟は出来てるんだろうな? (逃走を余儀なくされ、インタビューはやむなく中断)


 スネイプ氏と同級生だったグリフィンドールの女性の証言

 ええ、はい、スネイプは……あ、すみません、スネイプ先生は知ってました。いやー、ほんと陰険な奴でしたよ。ジェームズとよくやり合ってるところを見ました。ハリーの父親? そうです、彼の父親とスネイプは仲が悪かったですね……どちらともなく魔法を仕掛けたりしてましたから。まあ、スネイプが突っかかっていた理由は想像つきますけど。なぜって? それは嫉妬でしょうね。勉強もできるしクィディッチも得意なジェームズを妬んでいたんでしょう。
 ジェームズと仲が良かった人? それはシリウス、リーマス、あと……ぺティグリューでしょう。4人でよくイタズラをしてましたね。ええ、そうですね、リリーも同級生でした。
 あ、そういえば、ジェームズとリリーが付き合う前は、リリーはなぜかスネイプと仲が良かったですね。ふたりが一緒にいるところはあまり見たことがないですが、夏休み中はよく会ってるとリリーが話してました。もしかしたら――スネイプはリリーに恋心を持っていたかも、しれないですね。リリーは綺麗で性格も良かったですから。リリーはそんなこと知らなかったと思いますけど。
 二重スパイの理由になるかって? うーん……もしスネイプがそれほどリリーを想っていたら、ありうるのかもしれませんけど、現実的ではないですね。もし、もし、そうだったら、リリーの子供を守るためにかってでたんでしょうけど……うん。そこまで人を愛することができる人間かと言うと、わからない……ですね……。私の知る限り、スネイプは陰気で常に機嫌の悪そうな顔をしてましたから……ええ、もちろん今は彼に感謝してますよ。


 再びハリー・ポッターの証言

(筆者の話を受けて)……そうですか、あなたは今までの話からそう思ったんですね。ええ、何度も言いますが、僕は何も言えません。何も言えませんが、その考えを否定することもできません。あなたがそれらの話から導き出した結論なので。……それにしても、スネイプ先生が二重スパイになった理由を探ろうとしたのは、あなたが初めてです。今まで彼の功績ばかり聞かれて、理由は聞かれませんでしたから。スネイプ先生も驚くでしょう。
 そうだ、今度ホグワーツにあるスネイプ先生の肖像画を案内しましょうか。彼にも聞きたいことがあるんでしょう? ああ、いいんです、いいんです、これはただの好意なので……。


 ホグワーツ魔法魔術学校の校長室に架けられたスネイプ氏の肖像の証言

(筆者の考えを話すと)……………………(終始無言)
(記事にしていいか尋ねると、無言で首を振られる)

back

- ナノ -