愛 | ナノ
「ミスター・ポッター、この病室にミスター・スネイプがいらっしゃると伺ったのですが――」
「今はとてもインタビューできる状態じゃありません! お帰りください!」
 バタンとハリーは聖マンゴ病練のドアを閉めた。側にいたロンが呟く。
「確かにあの状態じゃな……」
 ロジエールが眠る横に、スネイプは座っていた。いつも以上に頬が痩せこけ、青白い顔をした彼は、じっとその黒い目をロジエールに注いでいた。ハリーたちが来たときから動かず、ハリーたちが来たことさえも気づいていないかのようだった。
 ロジエールはここ二週間目を覚まさない。どんな魔法が使われたのか、彼女によって蘇生したスネイプは、彼女を自ら聖マンゴまで運んだ。その日から、スネイプはロジエールに昼も夜もつきっきりになっている。
「またマスコミが来たらどうするんだ? 俺たちがずっといるわけにもいかないだろ?」
 ハリーは戦争が終わったあと、すべてのことを皆に話した。ホークラックスのこと。ダンブルドアのこと。もちろんスネイプのことも。
「その時は自分で何とかするだろうさ。これまでも来てただろうし」
「それにしても……スネイプ先生があんなになるなんて思わなかったわ。あんな先生初めて見た」
 ハーマイオニーがスネイプを見ながら呟く。確かに、誰もあのような憔悴したスネイプを見たことがなかった。いつもの皮肉を言う彼の姿はなかった。
「ロジエール先生、目を覚ましてくれるといいんだけど……」
 今のスネイプの姿は痛々しく、見ていられなかった。ロジエールが目を覚ますことを祈った。
 
 窓の外の日が沈み、部屋が薄暗くなる中、セブルスはじっとシルヴィアを見つめていた。昏々と眠り続ける彼女は、長きに渡る幽閉生活と拷問で痩せ細っていた。ヒーラーは、命に別状はなく、あとは目を覚ますのを待つだけだと言った。しかし、ずっと覚まさない可能性があるとも言っていた。
 そっと彼女の頬に手をやり、セブルスは呟いた。
「シルヴィア……起きてくれ、シルヴィア……私を残していかないでくれ……」
 声がしんとした部屋に響き、虚しく消えた。シルヴィアは目を覚まさない。セブルスは彼女の手を握り、自分の額へ近づけた。
「お願いだ、シルヴィア、目を覚ましてくれ……!」
 返答はない。堪えきれず、セブルスは涙をこぼした。雫が彼女の痩せた頬へ落ちて行く。
 自分は確かに蛇に噛まれて死んだはずだった。シルヴィアはどうやったのかはわからないが、死んだ自分を生き返してくれた。目覚めたとき、彼女はそばに倒れていた。その表情に苦痛はなく、満ち足りたような微笑みさえ浮かんでいた。
 また、大切な人を失ってしまうのか。自分のせいで、初めて愛し合えたかけがえのない人を失ってしまうのか。自分に対する不甲斐なさが襲う。
 やるせなさと深い悲しみで、セブルスは涙が止まらなかった。このまま目を覚まさなかったら。考えるのも怖かった。
「……セブ?」
 ふと、彼女の声が聞こえた。セブルスはハッとし、シルヴィアを見つめる。シルヴィアは長い睫を揺らし、ゆっくりと目を開いた。その青の瞳がこちらを向く。
「セブルス……」
「シルヴィア!」
 セブルスは身を乗り出し、立て続けに質問した。
「どこか痛みはないか? 大丈夫か?」
「大丈夫……」
「よかった……」
 深い安堵が胸に押し寄せた。もっと彼女と話したかったが、まずは容態を見てもらわなければならない。セブルスは杖を振り、看護婦へシルヴィアが起きたことを伝えた。
 
 シルヴィアの回復は早かった。見舞いも可能になり、様々な人々がシルヴィアの元へ訪れた。ハリーから全てを聞かされた彼女は、思わず彼に抱きついていた。が、苦い顔をしたセブルスに剥ぎ取られた。
 シルヴィアは、魔法を使えなくなっていた。原因はわからなかったが、セブルスを生き返らせたことと関係しているのは確かだった。しかし彼女は後悔していなかった。セブルスが生きてさえいてくれれば、それで良かった。
 戦争の犠牲者は多かったが、平和な日々が始まっていた。皆、彼らの代わりに生きようと決意し、前向きな人生を歩みだしていた。
 それはセブルスも例外ではないようだった。ある日の昼下がり、病棟の窓から吹く爽やかな秋風に、表情を緩ませていると、大事な話があると、堅い声で隣に座るセブルスが言った。シルヴィアはかすかに顔を横に向けた。セブルスはどこか緊張しているように見えた。初めて見る表情だった。
「……何の話? セブルス」
「君に……渡したいものがある」
 そう言うと、セブルスは懐から黒い小さなケースを取り出した。それがシルヴィアへと渡される。中身を察したシルヴィアは震える手でそれを受け取り、問いかけた。
「開けて、いいかしら?」
「……ああ」
 ゆっくりと蓋を開ける。そこには、シンプルなシルバーの指輪が入っていた。胸がいっぱいになり、涙があふれてくる。
「……退院したら、私と結婚してほしい」
 じっとこちらを見つめる彼の表情は緊張そのもので。シルヴィアはゆるく微笑んで頷くと、涙を流しながら、彼に口付けた。
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