愛 | ナノ
 学期末の試験が終わり、シルヴィアは答案を届けようとリーマスの部屋を開けた。そこには彼はおらず、代わりにセブルスがいた。
「セブルス、どうしてここに?」
 セブルスは机に手をつき何かを見ていた。近づいてみると、それは地図だった。ホグワーツの地図らしく、城の中が細かく書かれている。だがそれは普通の地図と違った。名前と共に、教師たちの足跡が動いていた。リーマスの部屋を見てみると、セブルス・スネイプとシルヴィア・ロジエールの足跡があった。
「セブルス、これは……?」
「ポッターが持っていた地図だ……ここを見てみろ」
 セブルスが指したところを見る。そこには――
「シリウス・ブラック……!」
 シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリュー、そしてハリー・ポッターと書かれた名前が、暴れ柳のところにあった。
「ピーター・ペティグリュー? どうして……私、ダンブルドアに報告を……」
「待て」
 後ろを向いたところで、セブルスに呼び止められた。
「これはチャンスだ。これを逃してはならん」
 彼の顔には狂気の色が浮かんでいた。
 絶対にダンブルドアに報告した方がいいとシルヴィアは思ったが、セブルスが断じてそれを許さなかった。
「一緒に来るんだ、ロジエール。ブラックがディメンターにキスされる姿を見るんだ……」
「嫌よ、私はそこまでブラックを嫌ってない!」
 背中を押す彼の手を払うように応えると、セブルスの目はぎらりと光った。まずい、と反射的に思う。
「ほう」と彼はゆっくりと言った。
「学生時代はあれだけ嫌っていたというのに。嫌い嫌いも好きのうち、というわけか」
「違うわ、そうじゃなくて……」
 何を言っても、正気を失っている彼には受け入れられない気がした。シルヴィアはとっさに、彼の骨ばった手を取った。
「私は、人がディメンターにキスされるところを見たくないだけよ。それがブラックであれ、ロックハートであれ……でも、あなたが行くというのなら、行くわ。万が一あなたに何かあったら……」
「心配せずとも、私は大丈夫だ」
 未だに不機嫌そうな顔をしていたが、その声には穏やかさが戻ってきていた。
「……一緒に行きましょう、セブルス」
 彼が元の彼に戻るように祈りながら、その手を握った。ダンブルドアへの報告も大事だが、セブルスをサポートするのが自分の使命だ。正気を失っている彼を、一人でブラックたちのところへ行かせるのは危険だった。
 セブルスに導かれるままに、校庭にある暴れ柳の穴を抜ける。そこには部屋があった。壁紙は剥がれかけ、家具という家具は、誰かが打ち壊したかのように破損していた。
「ここは……?」
「叫びの館だ」
「叫びの館……」
 驚いた。ホグワーツからホグズミードに繋がる抜け道があったとは。恐らくここからブラックは校内に入ったのだろう。
 その時、頭上で何かが軋む音がした。セブルスと廊下に出て、崩れ落ちそうな階段を上がった。彼は「ノックス」と唱え杖の明かりを消した。
 開いているドアが一つあった。中からリーマスの声が聞こえてきた。
「セブルスは、私が月に一度どこに行くのかとても興味を持った」
 セブルスは暴れ柳の穴の付近にあった透明マントを羽織り、ドアの中に入っていった。シルヴィアはその場で話を聞いた。
「私たちは同学年だったんだ。それに――つまり――うむ――互いに好きになれなくてね。セブルスは特にジェームズを嫌っていた。妬み、それだったと思う。クィディッチのジェームズの才能をね……とにかくセブルスはある晩、私が校医のマダム・ポンフリーと校庭を歩いているのを見つけた。マダム・ポンフリーは、私の変身のために暴れ柳へ引率して行くところだった。シリウスが――その――からかってやろうと思って、木の幹のコブを長い棒でつつけば、後をつけて穴に入ることができると、教えてやったんだ。そう、もちろんスネイプは試してみた――もしスネイプがこの屋敷までつけてきたら、完全に人狼になりきった私に出会っただろう――しかし、君のお父さんがシリウスのやったことを聞くなり、身の危険も顧みず、スネイプの後を追いかけて――しかしスネイプは、トンネルの向こう側にいる私の姿をチラッと見てしまった。ダンブルドアが、決して人に言ってはいけないと口止めした。だがその時から、スネイプは私が何者なのかを知ってしまったのだ……」
「だからスネイプは、あなたが嫌いなんだ」
 ハリーの声が聞こえた。
「スネイプは、先生もその悪ふざけに関わったと思ったわけですね?」
「その通り」
 ハーマイオニーの悲鳴が上がると同時に、シルヴィアも中に入った。長い黒髪の男――ブラックがさっと立ち上がった。
 セブルスはリーマスに杖を向けて立っていた。勝利の喜びを抑えきれない顔付きをしていた。
「私は、校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ。厚かましくも、こんな古い場所を隠れ家に使うとは、さすがの私も夢にも思わなかった」
「セブルス、君は誤解している。君は話を全部聞いていないんだ――説明させてくれ――シリウスはハリーを殺しにきたのではない」
「今夜、また二人、アズカバン行きが出る」
 セブルスの目が、狂気を帯びて光っていた。
「ダンブルドアがどう思うか、見ものだな――ダンブルドアは君が無害だと信じきっていた。わかるだろうね、ルーピン――飼い慣らされた人狼さん――」
「落ち着いて、セブルス」
 シルヴィアが声をかけた。その時だった。バーンとセブルスの杖から細い紐が噴き出し、リーマスの口、手首、足首に巻き付いた。リーマスはバランスを崩し、床に倒れた。ブラックがセブルスに向かったが、セブルスは彼の眉間にまっすぐ杖を突きつけた。
「やれるものなら、やるがいい。私にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる」
 ブラックは立ち止まった。二人の顔に浮かんだ憎しみは、比べようがないほど激しいものだった。シルヴィアは困惑しながらも、さっとハリーたちの方を見た。ロンが怪我をしている様子だったが、ハリーとハーマイオニーは無事のようだった。
 ハーマイオニーがセブルスのほうに一歩踏み出し、息を切らして言った。
「スネイプ先生――あの――この人たちの言い分を聞いても、害はないのでは、あ、ありませんか?」
「ミス・グレンジャー、君は停学処分を待つ身だ」
 セブルスは吐き出すように言った。
「君もポッターもウィーズリーも、許容されている境界線を越えた。しかも、お尋ね者の殺人鬼や人狼と一緒とは。君も一生に一度くらいは黙っていたまえ」
「でももし、もし、誤解だったら――」
「黙れ、この愚かな娘が!」
 セブルスが突然狂ったように喚きたてた。シルヴィアはビクリと体を震わせた。こんなに我を失っているセブルスを見たのは初めてだった。
「復讐は蜜より甘い」
 セブルスが囁くようにブラックに言った。
「お前を捕まえるのが私であったらと、どんなに願ったことか……」
「また愚かなことをするのか、セブルス」
 ブラックが憎々しげに言った。
「しかし、この子がそのネズミを城まで連れていくなら、それなら俺は大人しくついていくがね」
「城までかね?」
 セブルスが柔らかく言った。
「そんなに遠くに行く必要はないだろう。私がディメンターを呼べばそれで済む。連中は、ブラック、君をみて喜ぶだろう……喜びのあまり、キスするだろう……」
「聞け、最後まで俺の言うことを聞け。ネズミだ、ネズミを見るんだ――」
 ――ネズミ?
 シルヴィアはロンの手にあるネズミを見た。何の変哲もないネズミだった。
「来い、全員だ」
 セブルスが指を鳴らすと、リーマスを縛っていた縄の端がセブルスの手元に飛んでいった。
「私が人狼を引きずっていこう」
 瞬間、ハリーが飛び出し、ドアの前を立ち塞いだ。
「どけ、ポッター。おまえはもう十分規則を破っているんだぞ。私がここに来てお前の命を救ってなかったら――」
「ルーピン先生が僕を殺す機会は、この一年に何百回もあったはずだ。もし先生がブラックの手先だったら、そういうときに僕を殺してしまわなかったのはなぜなんだ?」
「人狼がどんな考え方をするか、私に推し量れとでも言うのか。どけ、ポッター」
「恥を知れ!」
 ハリーが叫んだ。
「学生のときにからかわれたからというだけで、話も聞かないなんて――」
「黙れ! 私に向かってそんな口の利き方は許さん! 蛙の子は蛙だな、ポッター! 私は今、お前のその首を助けてやったのだ。ひれ伏して感謝するがいい! こいつに殺されれば、自業自得だったろうに! ブラックのことで判断を誤ったと認めないとは、親も子も傲慢なことよ――さあ、どくんだ。さもないと、どかせてやる。どくんだ、ポッター!」
 ハリーは杖を構えた。
「ハリー!」
「エクスペリアームス!」
 ハリーが叫んだ。しかし、叫んだのはハリーだけではなかった。ドアの蝶番がガタガタ鳴るほどの衝撃が走り、セブルスは吹っ飛び、壁に衝突し、ずるずると床に滑り落ちた。髪の下から血が流れていた。
「セブルス!」
 シルヴィアが駆け寄った。三人分の魔法を受け、セブルスは気を失っているようだった。セブルスの杖は高々と舞い上がり、猫の脇のベッドの上に落ちた。
「こんなこと、君がしてはいけなかった」
 ブラックがハリーを見ながら言った。
「俺に任せておくべきだった……」
「いったい、どういうこと?」
 シルヴィアは立ち上がり、ブラックに向きあった。ブラックはハッとこちらを見、そして懐かしそうに目を細めた。
「君は……シルヴィアか? シルヴィア・ロジエールか?」
「……そうよ」
「ああ、懐かしい……変わってないな。こんなところで会えるとは思ってもみなかった」
「それはこっちの台詞よ。いったい、どういうことなの? あなたは有罪なの? 無罪なの? ピーター・ペティグリューはどこ? ネズミが何よ?」
「待て、今から証拠を見せる」
 ブラックはリーマスの縄をほどくと、ロンに向かって言った。
「君、ピーターを渡してくれ。さあ」
「冗談はやめてくれ。アズカバンに閉じ込められていたのに、どのネズミが自分の探しているネズミかなんて、どうやったらわかるって言うんだい?」
 ブラックは片方の手をローブに突っ込み、紙の切れ端を取り出した。そして皺を伸ばし、つきだした。日刊予言者新聞にのった、ロンと家族の写真だった。ロンの肩の上にネズミがいた。
「そういうことか。こいつの前足だ……」
「指が一本ないわ」
「まさに、なんと、単純明快なことだ――なんとこざかしい――こいつは自分で切ったのか?」
「変身する直前にな」ブラックが言った。
「こいつを追い詰めた時、こいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。この私がジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、俺が奴に術をかけるより先に、奴は隠し持った杖で道路を吹き飛ばし、自分の周囲二〇フィート以内にいた人間を皆殺しにした――そして、素早くネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ――」
「ロン、聞いたことはないかい?」ルーピンが言った。「ピーターの残骸で、一番大きなものが指だったって」
「多分、スキャバーズは他のネズミと喧嘩したかなんかだよ! こいつは何年も家族の中でお下がりだった。確か――」
「一二年だね、確か。どうしてそんなに長生きなのか、変だと思ったことはないのかい?」
「俺たち――俺たちがちゃんと世話してたからだ!」
「今はあんまり元気じゃないようだね。どうだい? 私の想像だが、シリウスが脱獄してまた自由の身になったと聞いて以来、やせ衰えてきたのだろう――」
「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」
 ロンはベッドで喉を鳴らしている猫を顎で指し示した。
「この猫は狂ってなどいない」
 ブラックがかすれた声で言った。骨と皮ばかりになった手を伸ばし、猫の頭を撫でた。
「今まで出会った猫の中で、こんなに賢い猫はまたといない。ピーターを見るなり、すぐに正体を見抜いた。俺と出会った時も、俺が犬じゃないことを見破った。信用してくれるまでに時間がかかったが、ようやく俺の狙いを伝えることができて、それ以来助けてくれた……ピーターを、俺のところに連れてこようとしたんだ。しかし、ピーターは事の成り行きを察知して、逃げ出した……この猫はクルックシャンクスという名前だね? ――ピーターがベッドのシーツに血の痕を残していったと教えてくれた……多分自分で噛んだんだろう……そう、死んだと見せかけるのは、前にも一度うまくやったことがある……」
「それじゃ、なぜピーターは自分が死んだと見せかけたんだ?」
 ハリーが語気を強めて言った。
「お前が僕の両親を殺したように、自分をも殺そうとしていると気づいたからじゃないか!」
「違う。ハリー――」
 リーマスが口を挟んだ。
「それで、今度はとどめを刺そうとしてやってきたんだろう!」
「その通りだ」
 ブラックは殺気立った目でスキャバーズを見た。
「それなら、僕はスネイプにお前を引き渡すべきだったんだ!」
「ハリー、わからないのか? 私たちはずっと、シリウスが君の両親を裏切ったと思っていた。ピーターがシリウスを追い詰めたと思っていた――しかし、それは逆だった。わからないのかい? ピーターが君の両親を裏切ったんだ――シリウスがピーターを追い詰めたんだ――」
「嘘だ! ブラックが秘密の守人だった! ブラック自身が、先生が来る前にそう言ったんだ。この人は、自分が僕の両親を殺したと言ったんだ!」
 ブラックはゆっくりと首を振った。
「ハリー……俺が殺したも同然だ。最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするよう勧めたのは俺だ。二人が死んだ夜、俺はピーターのところに行く手はずになっていた。ピーターが無事かどうか確かめに行くことにしていた。ところがピーターの隠れ家に行ってみると、もぬけの殻だった。争った形跡もなかった。どうもおかしい。不吉な予感がして、すぐ君の両親のところへ向かった。そして家が潰され二人が死んでいるのを見た時――悟った。ピーターが何をしたのかを、俺が、何をしてしまったのかを」
 涙声になり、ブラックは顔を背けた。
「話はもう充分だ。本当に何が起こったのか、証明する道はたった一つだ。ロン、そのネズミを寄越しなさい」
 ロンは躊躇ったが、とうとうネズミを差しだし、リーマスが受け取った。
「シリウス、準備は?」
 ブラックはもうセブルスの杖をベッドから拾い上げていた。
「一緒にやるか?」
「そうしよう」
 リーマスはネズミを片手にしっかりつかみ、もう一方の手で杖を握った。
「三つ数えたらだ。ワン、ツー、スリー!」
 青白い光が二本の杖から噴出した。小さな黒い影が激しく揺れた。無言で話を聞いていたシルヴィアも、思わず目を見開いた。目も眩むような閃光が走り、そして――次の瞬間、ネズミがいたところに一人の男が、後ずさりしながら立っていた。
「やあ、ピーター」
「シ、シリウス……リーマス……」
 ペティグリューは甲高い声で言った。
「友よ……懐かしの友よ」
 ブラックの杖腕が上がったが、リーマスがその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見た。それから、ペティグリューに向かって、冷たく言った。
「ピーター、二つ三つすっきりさせたいことがあるんだが、君がもし――」
「こいつは、また私を殺しにやって来た!」
 ペティグリューは突然ブラックを指差した。
「こいつは、ジェームズとリリーを殺した。今度は私を殺そうとしてるんだ……リーマス、助けて……」
「少し話の整理をするまでは、誰も君を殺しはしない」
「整理?」
 ペティグリューはキョロキョロと辺りを見回し、その目が板張りした窓を確かめ、一つしかないドアをもう一度確かめた。
「こいつが、私を追ってくるとわかっていた! こいつが私を狙って戻ってくるとわかっていた! 一二年も、私はこの時を待っていたんだ!」
「シリウスがアズカバンを脱獄するとわかっていたと言うのか?」リーマスは眉根を寄せた。「いまだかつて脱獄者は誰もいないというのに?」
「こいつは、私たちの誰もが夢の中でしか叶わないような闇の力を持ってる! それがなければ、どうやってあそこから出られる? おそらく例のあの人が、こいつに術を教えこんだんだ!」
 ブラックが笑いだした。ぞっとするような、虚ろな笑いだった。
「ヴォルデモートが、俺に術を?」
 ペティグリューは身を縮めた。
「どうした? 懐かしいご主人様の名前を聞いて怖じ気付いたか? 無理もないな、ピーター」
「私は無実だ、でも怖かった! ヴォルデモート支持者が私を追ってるなら、それは大物の一人を私がアズガバンに送ったからだ――スパイのシリウス・ブラックを!」
 ブラックの顔が歪んだ。
「よくもそんなことを。俺が? ヴォルデモートのスパイ? 俺がいつ、自分より強く、力のある者たちのまわりをこそこそ這いずりまわったことがある? しかし、ピーター、お前は――お前がスパイだということを、何故最初に見抜けなかったのか。迂闊だった。お前はいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっつくのが好きだった。そうだな? かつてはそれが俺たちだった……俺とリーマス……それにジェームズだった……」
 ペティグリューは顔を拭いた。いまや、息も絶え絶えだった。
「私がスパイなんて……正気の沙汰じゃない……どうしてそんなことが言えるのか、さっぱり――」
「ジェームズとリリーは、俺が勧めたから、お前を秘密の守人にしたんだ」
 ブラックは歯噛みした。その激しさに、ペティグリューは一歩下がった。
「それこそ完璧な計画だと思った――目くらましだ――ヴォルデモートはきっと俺を追う。お前みたいな弱虫の、能無しを利用しようとは夢にも思わないだろう――ヴォルデモートにポッター一家の家を売った時は、お前の惨めな生涯の、最高の瞬間だったろうな」
 青ざめたペティグリューは、訳の分からないことを呟いていた。
「信じてくれ、ハリー」
 掠れた声でブラックは言った。
「俺は決してジェームズやリリーを裏切ったことはない。裏切るくらいなら、死ぬ方がましだ」
 ブラックの言葉に、ハリーがうなずいた。やはりブラックは、ジェームズたちを裏切ってはいなかった。
 ペティグリューは膝をつき、ブラックに命乞いをはじめた。
「シリウス、私だ、ピーターだ――君の友達の――まさか君は――」
 ブラックが蹴飛ばそうと足を動かすと、ペティグリューは後ずさりした。
「俺のローブは十分汚れてる。これ以上お前の手で汚されたくはない」
「リーマス! 君は信じないだろうね……さっき言ったことを計画してたなら、シリウスは君に話したはずだろう?」
「私のことをスパイだと思っていたら、話さなかっただろうな。シリウス、それで私に話してくれなかったんだろう?」
「すまない、リーマス」
「気にするな、パッドフット。その代わり、私が君をスパイだと思い違いしてたことを許してくれるか?」
 リーマスは袖をまくりながら言った。
「もちろんだ」
 ブラックのげっそりした顔に、ふと微かな笑みが浮かんだ。彼も袖を捲りはじめた。
「一緒にこいつを殺すか?」
「ああ、そうしよう」
「やめてくれ、やめて――」
 ペティグリューはロンのそばに転がり込んだ。
「ロン、私はいい友達――良いペットだったろう? お願いだ――君は私の味方だろう?」
 ロンは不快そうにペティグリューを睨んだ。ペティグリューは向きを変え、ハーマイオニーのローブの裾をつかんだ。
「やさしいお嬢さん――あなたならそんなことをさせないでしょう? 助けて――」
 ハーマイオニーはローブを引っ張り、怯えきった顔で壁際まで下がった。ペティグリューはこちらへやって来た。
「ああ、シルヴィア――君は慈悲に満ちた優しい人だと私は知ってる――」
「そう。私はあなたのこと何も知らないわ。私なら、知らない人より知ってる人の話を信用するけど」
 本当はジェームズを殺したペティグリューを蹴りあげたかったが、かろうじてその欲望を抑えた。ハリーたちの前で、そんな真似はしたくなかった。ぺティグリューは震えながら膝まずき、ハリーに向かって顔をあげた。
「ハリー、ハリー、君はお父さんに生き写しだ――そっくりだ――」
「ハリーに話しかけるとは、どういう神経だ?」
 ブラックが大声を出した。
「ハリーに顔向けできるか? この子の前でジェームズのことを話すなんて、どの面下げてできるんだ?」
「ハリー、ジェームズなら私に情けをかけてくれただろう――」
 ブラックとリーマスがペティグリューに近づき、肩を掴んで床の上に仰向けに叩きつけた。ペティグリューはわっと泣き出した。おぞましい光景だった。
「シリウス、シリウス、私に何ができた? 闇の帝王は――君にはわかるまい――あの方には君の想像もつかないような武器がある――私は怖かった。やろうと思ってやった訳じゃない――あの方が無理やり――」
「嘘をつくな!」
 ブラックが割れんばかりの大声を出した。
「お前はジェームズとリリーが死ぬ一年も前から、あの人に密通していた! お前がスパイだった!」
「おまえは気づくべきだったな」
 リーマスが静かに言った。
「ヴォルデモートがお前を殺さなければ、我々が殺すと言うことを。ピーター、さらばだ」
「やめて!」
 ハリーが叫んだ。ハリーはペティグリューの前に立ち塞がり、杖に向き合った。
「殺しちゃダメだ。殺しちゃいけない」
 ブラックとリーマスはショックを受けたようだった。
「ハリー、このクズのせいで君は両親を亡くしたんだぞ」
「わかってる。こいつを、城まで連れていくんです。こいつはアズカバンに行けばいい――殺すことだけはやめて」
「ハリー!」
 ペティグリューが両腕でハリーの膝を抱き締めた。
「離せ。お前のために止めたんじゃない。僕の父さんは、親友が殺人者になるのを望まないと思っただけだ――お前みたいな奴のために」
 誰一人動かなかった。ブラックとリーマスは互いに顔を見合わせていたが、二人同時に杖を下ろした。
「いいだろう。ハリー、脇に退いてくれ」
 リーマスが言った。ハリーは躊躇っているようだった。
「縛りあげるだけだ。誓ってそれだけだ」
 ハリーは脇に退き、リーマスの杖の先から細い紐が噴き出すと、ペティグリューは縛られ、床の上でもがいた。
「ピーター、もし変身したら」ブラックも杖をペティグリューに向け、唸るように言った。「やはり殺す。いいね、ハリー?」
 ハリーは頷いた。
「よし、ロン、私はマダム・ポンフリーほどうまく骨折を治すことができないから、医務室に行くまでの間、包帯で固定しておくのが一番いいだろう」
 リーマスはロンのそばに行って屈むと、足を軽く杖で叩き、フェルーラと唱えた。固定されたロンの脚に包帯が巻き付いた。
「よくなった。ありがとう」
「スネイプ先生はどうしますか?」
 ハーマイオニーが小声で言った。
「特に悪いところはないわ。頭から血が出てたけど、さっき私が治したから大丈夫」
 シルヴィアは魔法で担架をだし、セブルスをその上にのせた。リーマスは透明マントを拾い上げ、ポケットに仕舞い込んだ。ペティグリューはロンとリーマスが繋がり、シルヴィアはセブルスを連れながら、ハーマイオニーのあとに続いて部屋を出た。
 月明かりが皆を照らす。リーマスの手足が震えだしたのを見て、シルヴィアはハッとした。
「リーマス……!」
「逃げろ! 早く!」
 ブラックが叫ぶと同時に、恐ろしい唸り声がした。リーマスの体が伸び、みるみる毛が生え出した。
 狼人間が立ち上がり、牙を鳴らしたとき、巨大な犬が躍り出た。二匹は牙と牙で噛み合い、鉤爪が互いを引き裂いた――シルヴィアはとっさに三人を庇った。
 ――ペティグリューは……!
 さっと目を地面へ向けると、ペティグリューはリーマスの落とした杖に飛びついていた。同時に手錠で繋がっていたロンが転倒し、バーンと大きな音が響いた。シルヴィアは自分の杖を向けた。
「エクスペリアームス!」
 リーマスの杖が高々と舞い上がった。
「動いたら殺す!」
 シルヴィアは本気だった。ペティグリューへの憎悪は大きくなるばかりだった。
 ハリー、ハーマイオニーもペティグリューに杖を向けていた。ペティグリューは観念したように、倒れたまま両手を挙げた。しかし次の瞬間、ペティグリューはいなくなった。ネズミに変身したのだ。すぐにネズミを追うが、見失ってしまった。
 高く吠える音と、低く唸る声が聞こえてきた。振り返ると、狼人間が逃げ出すところだった。森に向かって走り去っていった――
「シリウス」
 ハリーが犬に向かって大声を上げた。
「あいつが逃げた、ペティグリューが変身した!」
 巨大な犬――ブラックは、血を流していたが、ハリーの言葉に素早く立ち上がり、足音を響かせて校庭を走り去った。
「……城まで行きましょう」
 ブラックの去った方向を見ながら、シルヴィアは言った。ペティグリューはブラックに任せて、今はハリーたちを安全な場所に送るのが先だ。
 ロンを担架に乗せ歩き出した時、暗闇の中から、鋭く叫ぶ声が、苦痛を訴えるような犬の啼き声が聞こえてきた。
 シリウス、とハリーは闇を見つめて呟き、駆け出した。ハーマイオニーも後に続いた。
「ハリー、ハーマイオニー!」
 ああもう、とセブルスとロンを乗せた担架を地面に下ろすと、彼らに防衛呪文をかけ、シルヴィアは三人を追って駆け出した。しかし、ヒールを履いているせいで、思うように走れない。イライラしたシルヴィアは、魔法でヒールを取るものの、逆にもっと走りづらくなり、かなりの遅れをとってしまった。
 走っているうちに、薄く光が見えてきた。おそらくパトローナスの光だ。シルヴィアはその方向へ急いだ。
「ハリー!」
 小さな湖の砂浜に、ブラックとハリー、ハーマイオニーが折り重なるように倒れていた。まずハリーの脈を取る。気を失っているようだった。ブラック、ハーマイオニーも同様だった。
 息を切らしながら、光の源を見る。そこには、牡鹿がいた。ジェームズが、いた。
「ジェームズ……」
 ジェームズがここにいるはずがない。きっと、ハリーが出したパトローナスだろう。
 そう自分を落ち着かせると、シルヴィアは担架を三つだし、ハリーとブラック、ハーマイオニーを上にのせた。
 死んだ者はもう戻っては来ない。どんな手段を使っても。シルヴィアはそれが痛いほどわかっていた。
 セブルスたちの元へ三人を連れて戻ると、セブルスは意識を取り戻したようで担架から起き上がっていた。
「セブルス、大丈夫?」
 ああ、と彼は頷き、そして後ろに浮いている担架を見て言った。
「何故ブラックを助ける? あれからどうなった?」
「ペティグリューが鼠に化けてたわ。彼はアニメーガスだったの。ペティグリューがハリーの両親を殺した犯人だった。けど、どこかに逃亡したわ」
 そう答えれば、セブルスは眉根を寄せた。
「君の言うことを信じていないわけではないが、ペティグリューが犯人だった証拠などない。ブラックにはディメンターのキスが執行されるべきだ……!」
 シルヴィアは呆れた。
「あなた、どれだけブラックのことが嫌いなの……」
 シルヴィアの言うことも聞かず、セブルスはブラックを魔法で縛り上げ、二人は四人を連れて城へと戻った。シルヴィアはハリーたちを医務室に寝かせ、校長室へ行こうとしたが、セブルスがそれを制した。ダンブルドアに話し、もうファッジと連絡をとったと言うのだ。
「あなたねえ」
 これにはさすがのシルヴィアも怒った。
「個人的な恨みで事実も聞こうとせずキスを執行させようなんて、何考えてるの?」
 シルヴィアは急いで校長室に行き、ダンブルドアに報告すると、一緒にブラックの元へ向かった。彼はセブルスによって、八階のフリットウィックの部屋に閉じ込められていた。
 意識を取り戻していたブラックは、ドア越しに堰を切ったように全てを話した。全てを聞いたダンブルドアは頷き、シルヴィアとともに事務室を後にした。
「校長、私が証言します、ブラックは無実だと――」
 ダンブルドアは深刻な顔で頷いた。
「君なら、陪審員も信じるかもしれない……しかし、シルヴィア、あの道路には、シリウスがペティグリューを殺したと証言する目撃者が大勢いた。そして、シリウスは無実の人間らしい振る舞いをしていない。ファット・レディを襲った――グリフィンドール寮にナイフを持って押し入った――生きていても死んでいても、ペティグリューがいなければ判決を覆すのは無理じゃ」
「ではどうすれば――!」
「私に少し考えがある」
 どんな考えだろう。ダンブルドアに無言でついて行くと、シルヴィアはその行き先を悟った。医務室に向かっているようだった。
「まさか、ハリーたちを……!」
「あまり危ない目には合わせたくないが、今はそれが最善だ」
 ハーマイオニーがタイムターナーを持っていることは、知っていた。マクゴナガルから言われ、魔法省へ取り持ったのはシルヴィアだった。『時』の学者がホグワーツにいるとあって(ハーマイオニーの成績がすばらしいこともあって)、承認はすんなり下りた。
 もし誰かがハリーたちを見たら――もしハリーたち自身に見られたら――最悪彼らは命を落とすかもしれない。
「そんなこと、許されません!」
 気づけば叫んでいた。
「私たちは一体、誰を守っているんですか!?」
「私も、ハリー達にこんな真似はさせたくない。しかし、シリウスを救い出せるのは彼らしかいない……」
「危険過ぎます……!! あの子達はまだ一三歳ですよ!?」
「シルヴィア」
 階段の途中で、ダンブルドアは立ち止まりこちらを見つめた。とても静かな声だった。
「毎日のようにタイムターナーを使っていたハーマイオニーが、人を混乱させるようなヘマをしたかね? ハリーたちは、君が思っているほど子供ではない。時には、彼らを信じることも必要じゃよ」
 シルヴィアは唇を噛み締めた。悔しいが、何も言い返せない。ダンブルドアはこちらをしばらく見つめ、そして階段を下りていった。
 セブルスの怒号が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。医務室に戻ってくるであろうハリーたちと鉢合わせないように、シルヴィアは自分の部屋にいた。ブラックを無事逃がすことができたらしい。シルヴィアは何食わぬ顔で部屋を出、近づいてきたセブルスたちに尋ねた。
「どうしたの、セブルス? 何をそんなに怒っているの?」
「ロジエール!」
 セブルスは大股でこちらにやってきた。こんなに怒りを露わにした彼は、今まで見たことがなかった。しかしシルヴィアは、怖いとは思わなかった。
「ブラックを部屋から出したのは君か? 君がやったのか?」
 ふう、とシルヴィアは息をつき、ゆったりと腕を組んだ。
「私が、どうやってドアを開けられるの? 鍵をかけたのは自分でしょう?」
「きっと、姿くらましを使ったのだろう、セブルス」
 ファッジが言った。
「誰か一緒に部屋に残しておくべきだった。こんなことが漏れたら――」
「ヤツは断じて姿くらましをしたのではない!」
 セブルスは大声で言った。
「この城の中では、姿くらましも姿現しもできないのだ! これは、断じて――ロジエールではないとすれば――ポッターが絡んでいる!」
「ねえ、セブルス――落ち着いて――ハリーは医務室に閉じ籠められてるわ――」
 言いながらダンブルドアをちらと見る。彼はこちらにウインクをした。ハリーたちは間に合ったようだ。シルヴィアは安堵した。
 ダンブルドアが鍵を開いた直後、バーンと、医務室のドアが猛烈な勢いで開く。こちらを見て驚くハリーとハーマイオニーの姿があった。
「白状しろ、ポッター! いったい、何をした?」
「スネイプ先生!」
 マダム・ポンフリーが金切り声を上げた。
「場所をわきまえていただかないと!」
「スネイプ、まあ、無茶を言うな」
 ファッジが言った。
「ドアには鍵が掛かっていた。今見た通り――」
「こいつらが、ヤツの逃亡に手を貸した。わかっているぞ!」
 セブルスは、二人を指差しながら喚いた。
「いい加減に静まらんか! 馬鹿げたことを言うんじゃない!」
 ファッジが大声を出す。
「あなたは、ポッターをご存じない!」
 セブルスの声は上ずっていた。
「こいつがやったんだ。わかってる。こいつがやったんだ――」
「もう充分じゃろう、セブルス」
 ダンブルドアが静かに言った。
「自分が何を言っているのか、考えてみるがよい。私が一〇分前にこの部屋を出たときから、このドアにはずっと鍵が掛かっていた。マダム・ポンフリー、この子たちはベッドを離れたかね?」
「もちろん、離れませんわ!」
 マダム・ポンフリーが、眉を吊り上げた。
「校長先生が出て行かれてから、私、ずっとこの子たちと一緒におりました!」
「セブルス、聞いての通りだ」
 ダンブルドアが落ち着いて言った。
「ハリーもハーマイオニーも、同時に二箇所に存在することが出来るというのなら別だが。これ以上二人を煩わすことは、何の意味もないと思うがの」
 煮えたぎらんばかりに興奮したセブルスは、その場に棒立ちになり、まずファッジを、そしてダンブルドアを睨みつけた。ファッジは、セブルスの振る舞いに完全にあきれ果てたようだったが、ダンブルドアは、メガネの奥でキラキラと目を輝かせていた。セブルスは背を向け、音を立ててローブを翻し、病室から嵐のように出て行った。シルヴィアも急いで後を追う。
 セブルスが無実の者にディメンターのキスを執行しようとしたことは許されるものではないが、ブラックを恨むセブルスの気持ちもよくわかった。
「セブルス! セブ、待って!」
 風を切って歩いていた背中が、ふいに立ち止まり、こちらを振り返った。その表情には先程までの興奮は浮かんでいなかったが、怒りは確かにこもっていた。
「ついてきてどうする。私を慰める気か?」
「……いいえ。あなたと一緒にいたいだけよ」
「……好きにしろ」
 ふんと鼻を鳴らし、再び歩き出す。先ほどより若干遅くなったスピードに、シルヴィアは頬を緩ませ、彼の数歩後ろを歩いた。

 リーマスが今朝退職届を出したと聞いたのは、二限目の授業が終わってからだった。教員室で会ったチャリティが言うには、セブルスが朝食の席で、スリザリン生にリーマスが狼人間だとバラしたのが原因らしい。シルヴィアはいてもたってもいられず、リーマスの部屋へ急いだ。戸口には、ダンブルドアとリーマスがいた。リーマスは少し驚いたようだった。
「シルヴィア……」
「本当に、辞めてしまうの?」
 リーマスは頷いた。そう、とシルヴィアは俯いた。昨夜のこともあり、リーマスがホグワーツにいられるとは思っていなかったが、こんなにすぐに辞めてしまうとは思わなかった。
「……あなたは、最高の教師だったわ。もっと一緒に仕事したかった」
「ありがとう」
 私も君と仕事ができてよかった、とリーマスは微笑み、手を差し出した。シルヴィアはその手を握った。
「さよなら、シルヴィア。またいつか会おう」
「ええ……さよなら、リーマス」
 リーマスはダンブルドアとも握手をすると、見送りは大丈夫だと言って、古ぼけたカバンと空になった水槽とともに去っていった。
「……ダンブルドア」
 彼の姿が見えなくなったとき、シルヴィアは後ろにいるダンブルドアへ呼びかけた。
「何かね?」
 青い瞳は今も、純粋にきらめいている。促すような視線に、口を開いた。
「リーマスも、騎士団の一員になりますでしょうか?」
「もちろん、彼が良ければそうしたいと思っておるよ」
「それはよかった……」
 シルヴィアは胸を撫でおろした。リーマスとまた会えるという確約がほしかった。
 ダンブルドアは部屋を出て行こうとし、それをシルヴィアが引き留めた。彼に知らせるべきことがあった。
「結果として、ブラックは助かりましたが……私がもっとセブルスに気を配っていれば、ハリーたちに危険を冒させるような事態にはならなかったと思うんです」
 ダンブルドアは表情を変えなかった。
「ハリーたちをマダム・ポンフリーに任せて、私はセブルスと一緒にいるべきでした。すみません」
「シルヴィア、君が謝る必要はない」
 ダンブルドアは優しく言った。
「どのみち、セブルスは憎しみから正気を失っていた。君がなんと言おうと、きっと耳を貸さなかったじゃろう……」
 確かに、昨日のセブルスは怒りで我を忘れていた。学生時代に受けた仕打ちに対する憎しみ、そしてエヴァンスの居場所を例のあの人へ伝えたことに対する憎しみ――実際はぺティグリューがスパイだったが――が、ブラックを前に露わになった。
 セブルスはエヴァンスを今も大切に思っている。
 ふと過ぎった考えに、胸を針で刺されたような、かすかな痛みを感じた。シルヴィアは気のせいだとそれを無視し、ダンブルドアと向き合った。
「実は、もう一つ謝ることがあるんです……私はセブルスと一緒にある地図を見ていました。その地図は誰がどこにいるかわかるもので、ブラックとハリーたちが暴れ柳の下にいることがわかっていたんです。私はあなたに報告しようとしましたが、セブルスに止められて……そこに行こうとする彼はすでに狂気が宿っていました。彼への心配から、私はあなたへの報告よりも、セブルスと行動することを選んでしまいました……」
「それでいいんじゃよ、シルヴィア」
 ダンブルドアは微笑んだ。
「それでいい……それが私の望んだことじゃ」
「本当に、私はセブルスのそばにいるだけでいいのですか……?」
 彼の反応は予期しておらず、シルヴィアは驚いていた。確認するためもう一度問いかける。ダンブルドアはしっかりと頷いた。
「そう。それが君の使命じゃ。なぜならそれは、君にしかできない。君とセブルスは互いに心を許し合っておる……他の誰にも、彼とそんな関係は築けない」
「そうでしょうか……」
「そうじゃ」とダンブルドアは断言した。
「これからも、彼とともにいてほしい。それが私の願いじゃ」
 シルヴィアはゆっくりと頷いた。それがセブルスのために、ハリーのためになるのなら、喜んでそばにいよう。支えよう。そう思った。
- 10 -
prev / next

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -