「帽子っ!!!」
飛び起きたルフィに、ベッド横に座っていたララはびくっと肩を揺らした。ララの代わりに、甲板にいるサンジが声をかける。
「あるだろ、そこに」
「あ…あった」
「目ェ覚めたかよ」
ルフィはペリペリと額につけた大きな絆創膏を剥がそうとし、ララはそれを止めた。
「まだつけといた方がいいよ」
「もう治った」
強引に絆創膏を剥がしたルフィの額は、確かにきれいになっていた。ルフィといいサンジといい、人間の治癒力を上回りすぎじゃないか。
「あいつらは?」
「帰ったよ」
「”グランドライン”でまた会おうってよ。ギンが言ってたぜ」
「へーーっ、お前にか?」
「てめェにだよ!!!」
ララが思わず笑ったところで、ノックの音がした。出ると、コックが立っていた。オーナーがララを呼んでいるらしい。
行ってくる、と二人に言い残し、ララはゼフの部屋に向かった。ノックをすると、入れとゼフの声が聞こえてくる。ゼフは甲板に立ち、2階を見下ろしていた。隣に立って下を見ると、ルフィに楽しそうに話すサンジの姿が見えた。
「うれしそうな顔しやがって……バカが」
「ふふ、オールブルーの話ね」
ふたりでじっとサンジを見つめる。少ししてゼフが口を開いた。
「……ララは、あいつがいなくなっても平気か?」
平気だと言えばうそになる。でも――。
「平気じゃない、けど……サンジにとって一番いい選択をさせてあげたいって思ってる」
「そうか……一緒に行きたいとは思わねェのか?」
「えっ」
驚いてゼフを見る。思ってもなかったことだ。ララはぶんぶん首を振った。
「お、思わないよ、第一ルフィくんに勧誘もされてないし……」
ゼフは無言でこちらを見つめる。その視線に居心地の悪さを感じていると、ふいと前を向きゼフは言った。
「まァいい……1階にコックたちを集めとけ」
ララは頷き、部屋を去った。
「メシだァ――っ!! 野郎どもォ――っ!!!」
コックの声が響き渡る。皆が2階の店員食堂に向かう中、ララは一人、自分の部屋の甲板でぼんやり海を見ていた。ゼフの計画にあまり賛同できなかったというのもあるが(美味しいものをまずいなんて絶対に言えない)、少し一人になりたい気分だった。今頃彼の計画が実行されているだろう。そして、きっとサンジはここを出ていく。
思えばずっと一緒だった。嬉しい時も悲しい時も、傍にいてくれたのがサンジだった。かっこよくて、強くて、人一倍優しい彼を、自然と好きになった。彼もまた、自分を好きになってくれた。
寂しさとともに涙があふれてくる。夢の後押しをしてあげたいと思っていることは事実だが、いざその時を迎えると、ぽっかり穴の空いたような、どうしようもない寂しさでいっぱいになる。これがサンジにとって一番いいこと。頭ではわかっていても、嗚咽は止められなかった。
20180319
prev next
back