あの子と目ェ合わせない方がいいぞ。
「!」
いつも通り接客していたララは、どこからか聞こえてきたその言葉に体をこわばらせた。さりげなく周りを見ると、隅のテーブルでカップルがひそひそと話しているのが見えた。カップルの女性と目が合う。彼女は慌てたようにすぐ目を伏せた。
ララは思わず顔をうつむかせる。いつかはこうなると思っていた。そして、ララが原因で客が来なくなることを、心底恐れていた。
「……どうした?」
厨房から出てきたサンジが、ララの様子を見かねて尋ねてきた。ララは何でもない、と作り笑いを浮かべ、注文を取るため客のもとへ向かった。
次の日。ララは開店の準備が始まるころになっても、まだ部屋の中にいた。昨日のことがあり、人前に出たくないという気持ちが大きくなっていた。鏡の前に座り、どうしようと考えていると、ノックする音が聞こえてきた。
「ララ、まだ寝てんのか?」
サンジの声だった。ララは立ち上がりドアを開けた。
「……おはよう、サンジ」
「おはよう……何かあったのか?」
まだパジャマ姿のララを見て、サンジが心配そうに言う。ララは昨日のことを話すことにした。
話し終わりサンジを見る。彼は大きくタバコの煙を吐き、こちらを見た。
「……そんな客、気にするこたァねェ。ララはララだ。ララが催眠かけたりしねェって、おれたちは知ってる。それが原因で客が減っても、万々歳さ。そんな客、こっちから願い下げだ」
サンジの言葉に、ララは救われた気がした。ありがとうと言うと、くしゃっと頭を撫でられる。
「元気になったならよかった……早く支度しろよ。何なら手伝うか?」
手をわきわきとさせるサンジに、ララは笑った。
「ふふ、大丈夫。もうちょっとしたら行くってゼフに伝えといて」
「わかった」
軽くキスを交わした後、サンジは出ていく。ララは着替えるべく立ち上がった。
去年から付き合って1年。日に日にサンジの存在が、心の中で大きくなっていく。あまり依存しちゃだめだとわかっているが、恋愛経験のなかったララには、ブレーキの掛け方がわからなかった。
20171227
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