男たち四人を倒し、サンジはララの元へ駆け寄った。目かくしを外し、口と手足の縄を解く。ララは眠っているらしく、ぐったりとしていた。
「ララ!! しっかりしろ!!」
起きるように、しかし優しくララを揺さぶる。ゆっくりと瞼を開けたララは、驚いたようにこちらを見た。
「サ、サンジ!」
大丈夫か?と尋ねると、ララは慌てたように下を向いた。
「大丈夫。ごめんね、こんなことになるとは思わなかった……」
うなだれるララに、サンジは優しく言う。
「あんまり心配かけさせんなよ。立てるか?」
ララに手を貸し立たせると、一緒に倉庫を出た。辺りはすっかり暗くなり、夜の帳が下りていた。電燈の明かりを頼りに、二人は人通りの多い道へ歩き出す。
「……もう暗ェし、どっかの宿で泊まるか」
「うん……」
幸いサンジはお金を少し持ってきていた。二人分の宿代くらいは払えるだろう。そう思っていたのだが。
「2000ベリーじゃ足りません、お客様。同室ならご案内できますが」
「同室か……」
一瞬理性を保てるかという考えが浮かんだが、今はそれどころではない。
「ララはそれでもいいか?」
「うん……」
ララが頷く。先程からずっと俯いたままだった。
部屋はベッドが二つあるだけの、簡素なものだった。ベッドに腰掛けたサンジは、立っているララを見て自分の隣を軽く叩いた。
「ララ、こっちに座れ」
ララが隣に座る。俯く彼女に、サンジは声をかけた。
「……なァララ、何でおれと目を合わせてくれねェんだ?」
「………」
ララはしばらく無言だったが、やがて口を開いた。
「……私が目を合わせて願うと、その人が催眠にかかっちゃうんだって」
「催眠?」
驚きながら問うと、ララは頷いた。
「うん。ヒプノ族って言うらしいの」
「……今まで催眠をかけたことはあるか?」
ないと思う、とララは自信なさげに呟いた。
「ララが願わねェ限り、催眠にはかからねェんただろ? じゃあおれと目を合わせても大丈夫なんじゃねェか?」
「でも、無意識にかけてるかもしれないし……それにサンジとは、余計に目を合わせられない……!」
「……どういうことだ?」
ララは顔を真っ赤にして、俯いた。その反応にサンジは固まる。まさか、おれは夢でも見てんのか?
こぼれてしまいそうになる笑みを抑え、ララに尋ねた。
「なァ、ララ。おれとは余計に目を合わせられないって、どういうことだ?」
ララは意を決したようにこちらを向き、震える声で言った。
「……サンジが、私を好きになるようにって、願っちゃうから」
自然と体が動いていた。こちらを見上げるララの頬に優しく手を添え、顔を近づける。悟ったララが、ぎゅっと目を瞑るのを見て、ああやっぱり可愛いなと思い、唇に目を落とした。瞬間。
『プルルルルル』
電伝虫が鳴った。
あのクソジジイ……!とサンジはポケットに手を突っ込み、子電伝虫を取り出す。
「……もしもし?」
『サンジ、ララは見つかったか?』
「あァ、見つかった」
事の顛末を話すと、無言で聞いていたゼフが言った。
『……ララに代われ』
子電伝虫をララに渡す。ララは不安そうに受け取った。
「も、もしもし?」
『この、バカ娘が!!!!』
「!!」
ゼフの大声に、ララはびくっと体を震わせる。
『仕事ほっぽり出すとはどういう了見だ!!! どれだけ心配かけたと思ってる!!?』
「ごめんなさい……」
『いいか? お前にはしばらくタダ働きしてもらう!! ちゃんと反省しろ!!!』
「はい……」
涙目で答えるララに笑みを浮かべながら、サンジは再び子電伝虫に言った。
「もう暗ェから、おれとララはこの島に泊まってく。明日の昼までには帰る」
『……わかった。ララを頼んだ』
「あァ」
プツッと交信が切れる。
子電伝虫をサイドテーブルに乗せ、サンジはララと向き合った。ララはショックを受けたように固まっていた。
「どうしよう……タダ働きだって」
「そのくらいのことをお前はしたんだ。しょうがねェだろ」
うん、とララは悲しげに俯く。黒にも見える、深い青の髪を指で梳かすように撫でると、恥ずかしそうに目を伏せた。
「……そんなに緊張すんな。おれまで緊張してきちまう」
ララはどうしたらいいのかわからないらしく、困ったようにこちらを見ていた。潤んだ瞳に、吸い込まれそうだった。
「ララ……」
彼女の頬に再び手を置き、そっと口付ける。
サンジにとっても、ララにとっても、これが初めての口付けだった。
20171223
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