la mer

「ララ」

 今日は休みの日。自室の中でくつろいでいると、ドアの外からゼフの声がした。

「なに?」

 ドアを開けて尋ねる。

「サンジと一緒に買い出し行ってもらってもいいか?」

「うん、いいよー」

 部屋から甲板へ出てサンジの元に行く。サンジは自分の船(しましまのお洒落な船だ)を出しているところだった。

「おはよう、サンジ」

「おう、ララ。今日は一緒に買い出しか」

 煙草を片手にサンジは言う。同じだった背丈は優にララを越え、がっしりしてきた。声変わりも終わり、煙草を吸う姿も様になってきていた。大人になりつつある彼の姿に、ララは未だ慣れない。
 一緒に船に乗り込み(ララが乗るときに手を貸してくれた)、近くの島へ向かう。ちょうど朝市が開かれているようで、島は活気に満ち溢れていた。

「いらっしゃい、野菜が安いよー」

「おっ、このカボチャいいな。いくらだ?」

「お兄さん、いいのに目ェつけたねェ。350ベリーだ!」

「これ貰う!」

「まいどあり!」

 サンジと一緒に市をまわり、30分後にはサンジは両手いっぱいに食材を抱えていた。

「サンジ大丈夫? 何か持つよ?」

 心配になり問いかけるが、サンジは首を振った。

「大丈夫だ。このぐらい持てるさ」

「そう?」

「……一回船にこれ置いて、もう少し島をまわらねェか? せっかく休みなんだし」

「うん!」

 船に戻って食材を冷蔵庫に入れ、またサンジと一緒に島に行く。この島に来たのはララにとって初めてだった。

「あっ、これ可愛い!」

 ふと見つけた、ショーウィンドウの中にあった時計に、思わず歓声を上げる。猫をモチーフにしたその腕時計は、とても可愛らしかった。隣に来たサンジが時計を見て言う。

「腕時計か……中入るか?」

「うーん、でも高そうなお店だからいいよ」

「そうか? これくらいなら、買ってやってもいいが……」

 えっ、とララはサンジを振り返る。

「いやいや、いいよ。サンジのお金なくなっちゃう」

「はは、おれは意外と貯金してんだ。それにもうすぐララの誕生日だろ? プレゼントってことでやるよ」

 誕生日というのは、ララが二人に拾われた日のことだ。サンジやゼフ達に誕生日があることを羨んだララに、サンジがこの日をララの誕生日にしてくれた。
 ララはしばらく買って貰うか悩み、やがて言った。

「うーん……もうちょっと違うのも見てみるね」

 あァ、とサンジはうなずき、再び一緒に歩き出す。
 人通りの多いこの道は、もちろんきれいな女性も多くいる。

「なんって美しい人なんだーー!!」

 目をハートにして女性達に声を掛けるサンジに、ララはげんなりしながらも、いつも通りサンジの耳を引っ張った。

「はいはい、行きますよ」

「いてててて、もうちょい優しくっていつも言ってるだろ!」

「サンジがメロリンになるのが悪いの!」

 もう、と隣にいるサンジを見上げる。サンジが女性にメロメロになるのは昔からだ。
(……それがなければ普通にカッコいいのに)
 眉は何故かぐるぐるだけれど(触れていいのかわからず聞いたことがなかった)、整った顔をしている。金髪だし、いつもスーツを着てるし(副料理長になってから着るようになった)、黙っていればどこかの国の王子様のように見えなくもない。
 もったいないなあ、と心の中で思っていると、どんと誰かと肩がぶつかった。

「あっ、すみません……!」

「おいおい、肩の骨が折れちまったじゃねェか」

 ぶつかった相手が悪かったらしい。派手な服を着たチンピラが、けらけらと難癖をつけてきた。

「お? よく見りゃかわいいお嬢さんじゃねェか!!」

 ぐいと顎を掴まれ、顔を見られる。その下卑た視線に、ララの眉根が自然とひそまる。男の股間を蹴ってやろうと足を上げようとしたその時だった。

「……てめェ、おれの女に何してやがる」

 急に肩を抱かれ、男の手から引き離される。振り向けば、サンジが殺気を込めた目で男を睨んでいた。男はひっと悲鳴を漏らし、飛ぶように逃げていった。

「……ありがとう、サンジ」

 お礼を言うと、くしゃっと頭を撫でられる。

「おまえもボケッとしてんなよ。ほら、行くぞ」

「うん」

 おれの女と言ったのは、男を追い払うためだろう。それでも心臓はまだバクバクしていた。最近、この現象がよく起こる。
 これはいったい何なんだろうと思いながら、ララはサンジの背中を追いかけた。

20171219

prev next
back


- ナノ -