サンジはいつも、きれいな女性を見ると目をハートにする。
「よく来てくれたね、ジョセフィーヌちゃん!」
店内でハートをまき散らすサンジを見て、ララはふと、自分にはハートにならないなと思った。女性として意識されてないのだろうか。
自分の顔はそこそこだと思うし、胸もふくらんできて平均よりはあると思うし、ウエストだって細い方だと思う。鍛えられた脚は程よく筋肉がついていて、ララ自慢の脚だ。
女性らしい方だと思うのに、どうしてサンジは目をハートにしないのだろう。
ぼんやり考えていると、お客から呼ばれた。返事して客の元に向かう。
「いかがなさいましたか?」
「用ってほどでもないんだけど……お姉さんの名前、教えてもらっても良いかな?」
「ララと申しますが……」
どうして名前を聞くのだろう。ララは不思議に思いながら男性客にそう返す。
「ララちゃんか、良い名前だね」
男はにこやかに言い、ララの手に自分の手を重ねてきた。
「!」
「ララちゃん、休みの日っていつ? よかったらおれと遊ばない?」
誘ってきた男にララは驚く。ナンパなど初めての体験だった。手を振り払うこともできず、困って立ち尽くすララの元に、救世主はやってきた。
「てめェ、うちのウエイトレスを口説くとは、覚悟できてんだろうなァ」
振り返ると、サンジが立っていた。何やら怒っているようで、青筋を立てている。男はぎょっとサンジを見て、いえ口説いてるわけじゃ……と慌てたように言った。
「フン、なら良いが……もういっぺんララに触れてみろ、次は命はないと思え」
「は、はい……!」
サンジの脅しに男は萎縮する。サンジと一緒に男から離れたララは、小声で囁いた。
「何も、あんな脅さなくても……」
「ああ言わねェと、男はわかんねェもんなんだ。ララも、そう簡単に男に触らせるなよ」
うん、と素直に頷いたララにサンジは笑うと、厨房へ戻っていった。
こうして気に掛けてくれるのなら、今のままでも良いかもしれない。サンジが目をハートにしないのも、自分が彼にとって特別だからだと思えなくもない。
そうだといいな、とララは思い、ほんの少し口角を上げた。
20171228
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