不安そうな顔をして、チラチラとこちらを振り返りながら前を歩くなまえに僕は苦笑した。
今回の任務の最後に、僕は怪我を負った。右腕の骨折。エクソシストみたいな仕事をしていればこんなことは珍しいことじゃない。普段ならば同じエクソシスト仲間であるなまえもここまで僕のことを気にかけて、不安そうな顔はしないだろう。(まあ彼女は優しいから、もちろん全く心配をしないわけじゃないんですが)それなのに彼女が今日こんなにも僕のことを気にかけているのは、それはこの傷が彼女を庇ったときに負った傷だからだ。気にしなくていい、と言っても彼女は心配そうな顔をやめない。僕からしてみればそれは申し訳ないような、だけど少しむず痒いような、そんな感覚だった。
「なまえ」
「…何、アレン」
「本当に、こんな傷どうってことありませんから。気にしないでください」
僕の言葉になまえは怒ったような顔をして振り返った。そういうわけにはいかない!声を荒げて怒鳴る彼女に僕は思わず苦笑する。そんな僕になまえは、聞いているのか!と言って怒鳴る。彼女のこういう素直じゃないところは、嫌いじゃない。可愛いと思う。心配なんだって、素直に言えばいいのに。本当に素直じゃない。
「聞いてますよ。それに僕、この傷は悪くないと思ってるんです」
「はあ?…何だ、それは」
僕の言葉が理解出来ないと怪訝そうな顔をして、立ち止まって腕組みをする彼女に、僕も足を止める。確かに腕が一本使えないのは不便だけど、それ以上によかったと思えることが僕にはあった。
「なまえに怪我をさせなくて良かった。可愛い顔に傷がついたら、大変です」
「なっ…!」
「名誉の負傷、ってやつですよ。こういう怪我なら、堂々とラビたちに自慢できます」
笑って言った僕になまえは少しの間言葉を失い、顔を真っ赤にさせた。それから、お前ふざけてるのか!と言ってまた怒鳴り始める。心配して損したぞ!そう言いながら拳を上げて追いかけてくるなまえに、僕は笑いながら逃げて、一度だけ振り返って言葉を返した。
「心配、してくれてたんですよね。ありがとうございます」
すぐにまた前を向き直して、逃げたから彼女の顔は見えなかったけれど、このときの彼女の顔はまんざらでもない顔をしているような気がした。
/僕の太陽が沈んでしまわないように、この命はきみに捧げようと誓った(再録)