シトラス香る | ナノ
  

  
  
夢見ていたんだと思った。
すべてが夢だったのではないかと思った。





ひら、ひらひら、と舞う花びらや風の舞う中で、一人埋もれている。
きっと、ここなら見つからないかなっと、少しだけウキウキしながら寝転んでいる。

珍しく鋤は部屋においてきたし、今日は委員会もあるから、きょっと騒ぎになれば楽しいなぁなんって思っていたのに…

必死に探しに来てくれるとは思わなかった。

美しい顔をゆがませて…

制服も髪も汗で肌にくっついって…

走ってきてくれるとは思わなかった。


だから、夢だと思った。


夢見ているんだと思った。


夢だったらいいのになって思った。


でも……

夢じゃなかった。

びっくりした、驚いた。

怒られて

抱きしめられた。

何故、どうして。

痛いよ。苦しいよ。

離してよ。

怖いよ。赤いよ。

熱いよ。暗いよ。


あぁ、やっぱり夢だった。









「先輩、私は先輩と戦うくらいなら、死にたいです。」


「なら、私が殺してあげる。」


(…ありがとうございます。仙蔵さん)

(どういたしまして、喜八郎)


それは甘い夢だった。

もう戻ることの無い夢だった。


温かな風は爆風に変わり、華やかな花弁は血しぶきに変わった。

あぁ、やっぱり夢だった。


置いてきた鋤はもう二度と握れない。





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