今夜も私は先輩に会いに来た。
「喜八郎か」
「はい」
「入りなさい」
私は先輩の部屋に足を踏み入れる。
「寒くなかったか」
「ええ。大丈夫です」
先輩は何か書いているらしく、机に向かっているので私は敷いてあった布団の上に座った。
「調べものですか?」
「ああ。別に授業がどうとかじゃないんだがな。調べておかないと気が済まんのだ」
話しながらも先輩の手が止まることはない。
女性と見間違えるほど綺麗な指。
サラサラと美しい黒髪。
誰もが見惚れるそれらを私は今独り占め出来る。
「私は幸せ者だ」
小声で呟くと、先輩は「何か言ったか?」と振り返ったので、「いいえ」と首を
横に振る。
「それより先輩。私もう眠いです」
「先に布団に入っていればいい」
「先輩が一緒じゃなきゃダメです」
グイグイと寝間着を引っ張れば「喜八郎は甘えん坊だな」と笑みを浮かべて布団
に入ってくれる。
「これでいいか?」
「…もう少し近くに来てください」
先輩の背中に腕をまわして抱きつく。
「自分からくっついているじゃないか」
「先輩も抱きしめてくれなきゃいやです」
「わかったわかった」
スルリと背中に触れた手から先輩の体温が伝わってくる。
それと同時にどうしてこの人は私の言う事を聞いてくださるんだろうと少し不思
議に思った。
「……先輩、私は我が儘じゃないですか?」
「どうしたんだ急に」
「先輩にあれしてください、これしてくださいと…いつも自分を構ってもらう事しか考えてないとよく言われるもので。私は全然気にしてないんですけど…先輩に何か支障が出ているのではないかと思って…」
「…そんなことか」
クスクスと笑い声が降ってくる。
「まぁ世間から見れば我が儘なのかもしれん。だが私はな、お前が可愛くてしょうがないんだ。お前のしたがる事は何の苦にもならない。お前の望む事は何でも叶えてやりたいと思う。それは私が好きでやってることだ。支障?そんなもの出てたらとっくの昔にお前を怒鳴り付けているだろうよ。私はお前を好いて側に置いている。こうして共に寄り添っている。お前は気にせず私に甘えていいんだよ」
そう言って髪を撫でてくれる先輩。
私は『我が儘な奴だ』とか『自分勝手な奴だ』とか散々言われてきた。
自分でもそう思う。
だけど先輩はそんな私を見捨てずやさしく手を差しのべてくれた。
私の側にいなさい。
と、いつも私に笑顔を向けてくれた。
−だから私はこの人を好きなんだ。
「私は愛されているんですね」
「短く言えばそういうことだな」
綺麗に笑う先輩に、私は精一杯の笑顔を返した。
「おやすみ喜八郎」
「おやすみなさい」
「いい夢を見るんだよ」
あなたの
やさしい声と
やさしい手と
なにより
温かなやさしさに包まれて
やさしい夜
今日も私は幸せいっぱいで眠りにつけるのです
素敵仙綾企画月に焦がれてに提出させていただきました。
仙様は綾ちゃんのお願いなら何でも叶えてくれそうです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。