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「着いたぞ。」

「ハァ、ハァ」目的地に着いた頃には私の息も上がっていた。
息を整えるため深呼吸をして前を向く。


「着いたって……、船、ですか?」

「ああ、おれの船だ」


目の前にあるのは黄色の潜水艦のような船。何となく魚の形をしている。
側面には"DEATH"なんて書いてあって、物騒。その隣にはトラファルガーさんが着ているパーカーにあるマークと同じ物が描いてある。


「もしかして、船医さんですか?」

「違ェな。おれは海賊で、この船の船長だ。」

「え!?」


一瞬、驚きはしたが、私の好奇心がみるみるうちに勝っていく。

「すごい!お医者さまなのに船長さんなんですね!冒険をしてるんですか!?船の中、見てみたいです!」

「じゃあ上ってこい」

と、垂らされた梯子を上っていくトラファルガーさん。


あのマークは海賊のマークだったんだ。何だかそれっぽくなくて可愛いとさえ思っていたけれど、と考えながら後を着いていく。
恐れもなく海賊の船に乗る私は、世間知らずなのかもしれない。小さい頃から、友達と遊ぶなんて殆どしてこなかったし、住んでいる町から出たのなんて片手で足りる程で、そう言われても否定出来ない。

船に乗ると白い繋ぎを着た数人の男の人がトラファルガーさんに気付いて「お帰りなさい、船長」と挨拶をした。
向こうの方でオレンジの繋ぎを着た白熊が横になって鼻ちょうちんを膨らませてるけれど、あれ、ぬいぐるみなのかな……。
トラファルガーさんは白い繋ぎの男の人たちに「ああ。」と返事をして私に「こっちだ。」と中に案内した。


「おれの部屋だ。適当に座れ。」


部屋を見渡してみると、一番に目に付いたのが壁一面に置かれた本棚にびっしりと並べられた、たくさんの本。ほとんど医学に関する本だと何となく分かったのは、私もそんな本ばかり読んできたせいだろうか。
吸い付かれるように本棚の前へ。


「読んだことないのがたくさん……!」

「好きに読め。」

「いいんですか!?」

「ああ。」

「トラファルガーさんはどれが読んで面白かった、というか為になりましたか?」

「そうだな……。」トラファルガーさんは顎髭を擦りながら少し考え、1冊の本を抜き取った。

「これなんかどうだ。」


受け取ってざっと触りの部分だけ読むとそれは普段見ているものより数段難しそうだった。


「難しそうだな、でも、面白そう。」

「回りくどいかも知れねェが、結論はシンプルだぞ。」

「一緒に読んでもらえませんか?分からないところ多そうだし……。」


とんでもないことを口走った気がして、「い、嫌ですよね普通に考えて!大丈夫です、一人で読みます」と発言を取り消そうとしたが、トラファルガーさんは帽子を脱いでベッドに放り投げるとロングソファーに座り、「ここに座れ。」と足を組みながら隣を指差した。

私が左隣にちょこんと座り、本を開くとトラファルガーさんは少し身体を寄せてきて、肩を抱くように私の後ろに左手を回し、背もたれに手を置いた。
大人の男性に殆ど免疫のない私は、その仕草にどきどきしてしまう。怖いと思っていたけれど、改めて見ると格好良い。

ふたりで読み進めていく。
どきどきは本に集中する程にましになっていった。


「これはどういうことですか?」

「これはな…………。」

「あ、なるほど。じゃあ、これは?」

本に書いてある事象や身体の構造について質問をすると、100%の答えを分かりやすく教えてくれる。「そういや、この病気の奴を看たことがあるが、なかなか手強かったぞ。」とか、自分の経験を交えながら。

トラファルガーさんの説明や話は机で教科書を見るより、お父さんやお母さんがするより面白くて、夢中になった。
最後のページを捲る頃には日も赤くなっていて、そんなに時間が経っていたなんて気付かなかった。


「トラファルガーさん、ありがとうございます。すごく楽しかったし、勉強になりました。」

「そうか。」

トラファルガーさんが満足そうに笑う。

「……実は私、本当は医者になんてなりたくないんです。」

「何故だ。」

微かに眉を上げるトラファルガーさん。

「うちは町では評判の病院を経営する医者一家で、父も母も医者で私は一人っ子だからもちろん私が継ぐものだと、小さい頃から当たり前に勉強をしてきました。知らないことを知ることはとても好きで、医者になるための勉強は嫌いじゃないというか、むしろ好きなんですけど。」

トラファルガーさんは無表情のまま、横目で私を見ている。

「でも、医者の仕事ってとても忙しいでしょ。家のことはお手伝いさんに任せっきりで、家に帰って来ない時もあって。家を継いでもし子どもが出来たとき、私と同じ寂しい思いなんてして欲しくなくて。」

「それに」と私はまだ続ける。

「親に決められた道を歩みたくない。私だって少しは反抗したいんですよ。」

苦笑いを浮かべると、黙って私の話を聞いてくれていたトラファルガーさんが口を開いた。


「恵まれた環境って言うのはそれはそれで辛ェもんだ。でもな、世界は広ェぞ。お前の中の常識が全部ひっくり返るくれェにな。」

「世界かあ……見てみたいなあ。」

んーっ、と座ったまま背伸びをする。

「あの、いつまでこの島に居るんですか?」

右を向いてトラファルガーさんに目を合わせる。

「あと3日、だな。」

3日、と言う言葉に密かに少し喜んだ。

「もし良かったら明日もここに来て良いですか?」

「ああ。」

自然にまたここに来たいと思って、自然にそんな言葉が出た。トラファルガーさんも分かってたみたいにすぐに返事をした。

「もう帰らなくちゃ。じゃあまた明日。」と一緒に読んだ本を元の場所に戻して、買って貰った本を持ち、トラファルガーさんに手を振って船を降りた。




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