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私が町に着いた頃にはもう悪そうな男たちがみんな倒れていて、「畜生……」なんて捨て台詞を吐いていた。
男たちが立ち上がってよろよろと町の外へ歩いて行く。

トラファルガーさんが刀を鞘に収めると、船員さんたちが怪我をしている町の人たちの元へそれぞれ走っていって、ボストンバッグを開き、怪我の手当てをし始めた。
怪我人は数えられない程居て、その様子を肩を切らしながら見ていると、遠くに倒れているお父さん、お母さんの姿を見つけた。
顔を青くして、ふたりの元へまた走った。


お母さんは気を失っていて、お父さんは仰向けに倒れていて「うぅ……」と漏らしながらお腹を押さえていた。


「お父さん!」

お父さんはこちらにちらりと目をやると「イヴか……今までどこに……」と力なく言った。


「こいつ、イヴの父親か」

お父さんの傍に居たシャチさんがお父さんの上半身を起こした。


「そうです!シャチさん!父と母は大丈夫ですか!?」

「ああ、大したことはねぇよ。腹の打撲だけだ。母親は気絶してるだけで怪我はねぇ。」

「良かった……」

気が抜けてその場に座り、シャチさんがお父さんを手当てしていく所を座ったまま見ていた。


「イヴ、今までどこに行ってたんだ……」

「……ごめんなさい……」

やっぱり両親の前では強く出られない。
俯く私を見たシャチさんが口を開いた。

「おっさん、こいつが居なくなって本当に心配したのか?」

「どこの誰か存じませんが、処置ありがとうございます。……もちろん心配しました」

「心配したわりには必死に捜さなかったみてぇだな」

お父さんのお腹にぐるぐると包帯が巻かれていく。

「忙しかったので……家政婦に任せました」

「心配したなんて嘘じゃねぇか」

「…………」

お父さんは口を噤んでシャチさんから目を反らした。

「よし、終わったぞ。立てるようになるまでここで休んでな」とシャチさんが道具を片付けて立ち上がった。
それと同時に後ろから足音がして振り返ると、トラファルガーさんがすぐ後ろに立っていた。


「ま、町を救ってくれてありがとうございます!トラファルガーさん!」

「このおっさんが、イヴの父親らしいですよ」

シャチさんはお父さんを指差して言う。

「ほう。医者なのにてめェがやられてちゃ世話ねェな。……さあ、」

トラファルガーさんが悪戯に笑って続けた。

「治療代、10万ベリー頂こうか」

お父さんがその額に驚く。

「10万ベリーだと!?」

「ああ。早く用意しろ」

トラファルガーさんが威圧するようにお父さんを睨むと、お父さんは着ている白衣から子電伝虫を取り出した。
多分、トラファルガーさんの能力を目の当たりにして、抵抗は出来ないと諦めたのだろう。
ダイヤルを回しコールする音が数回鳴った後、お手伝いさんの「はい」という声が聞こえた。


「私だ。10万ベリー、病院の前に持って来てくれ。すぐにだ」

お手伝いさんが「は、はい」と返事をするとお父さんはすぐに電話を切った。

「シャチ、次だ」

「了解」

シャチさんが別の倒れている人の元へ走って行くと、「イヴ、着いてこい」とトラファルガーさんが踵を返した。慌てて立ち上がってトラファルガーさんの背中を追う。


「あ、あの!」

歩いていると後ろから高い声で呼ばれ、私とトラファルガーさんが振り返る。
そこにいたのは右頬にガーゼを貼られた小さな女の子だった。何度か見かけたことはあるけれど、名前は知らない。

「悪い人たちをやっつけてくれてありがとう!さっき、そこのお兄ちゃんに手当てしてもらったの!これ、私のおこづかい、少しだけど……」

と、その女の子はがま口の財布をひっくり返して、掌に出した。

トラファルガーさんは「要らねェ。金のねェ奴から取ってもつまらねェよ」と、またスタスタと歩き始めた。


次は少し離れた所から、おじさんの怒声がした。

「ふざけんなよ!勝手に治療しといてそんな高い金払えるか!」

「あ、あのおじさん……」

「知った奴か」

「まあ……町で有名なクレーマーです。うちの病院も困ってるって言ってました。」

トラファルガーさんは「そうか」と言って、クレーマーおじさんの元へ。
クレーマーおじさんは足を怪我したようで、包帯が巻かれた状態で地面に座っている。

「10万ベリーだ。早く払え」

「嫌だね!ぼったくりにも程がある!」

「払わねェなら、元に戻す。もっとも、元より酷くなる可能性の方が高ェがな。」

トラファルガーさんがまた悪戯に笑うと、刀を抜いた。

「ひぃっ……!わ、分かった!」

クレーマーおじさんは財布を取り出すとたくさんの紙幣を地面に叩き付けた。

「ほォ、金持ってんじゃねェか。10万じゃ安かったか」

「これで良いんだろ!全く、お前らの方が悪い奴らじゃないのか!」

「おれ達も海賊なもんでな」

「……ぷっ」


その光景を見ていた私は可笑しくなって吹き出してしまった。
まさに、トラファルガーさんが言っていた"私の中の常識がひっくり返った"瞬間だった。

「っふふ!こんなお医者さんって……!」

楽しそう、と続けようとしたけれど、クレーマーおじさんが私を睨んだ。

「あ……すいません……」


謝りながらも口を緩ませたまま、再び足を動かし始めたトラファルガーさんに着いていった。





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