▽ Hide it(ロー・前編)
「背中、見せてみろ。」
「どうぞ。」
ローが私の着ているTシャツを後ろから捲ると、処置室の机に置かれた斜光瓶からピンセットで液体の染み込んだ綿を取り出した。
ひやり、と背中に冷たい感覚がする。
「だいぶ治ってきたな。だが、やはり……」
「傷痕、残るんでしょ?」
「…………」
「本当に、気にしないでよ。」
「もう風呂は痛くねェか。」
「うん、もう殆ど痛みはないかな。」
「そうか。……終わったぞ。」
ローがTシャツを捲った手を放すと、はらりと元に戻った。
座っている丸椅子をくるりと回転させ、ローと向き合う。
また、その目。
悲しみと憐れみを滲ませた、光のない目。
「いつも、ありがとね。」
「……すま」
「もう!謝らないでよ!」
もう聞き飽きたローからの「すまねェ」。
聞きたくなくて声を荒げて遮る。
「…………。」
ローが眉間に皺を寄せる。
「もう行くね。」
逃げるように自室へ戻る。
服を脱ぎ、鏡に背を向けると首を捻り、横目で鏡を見る。
右肩から左の腰程にかけて残る、大きな傷痕。
いつだったか、そんなに遠くない前に、船を襲ってきた海賊に斬られた痕。
いつも私に向ける、あの暗い表情を見るのが辛い。
船長としてクルーである私にこんな傷を負わせたこと、外科医として綺麗に治せなかったこと、未だに悔やんでる。
傷なんてどうでもいいから、私のことを見て欲しいのに。
「……なんてね、はは……。」
独り言が室内に静かに落ちた。
私の頭の中に一つ、画策していることがある。また、ローが私に笑顔を向けてくれるように。
次の島で、実行できたら良いな。
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