▽ call my name(ロー)
「ろ……船長さん」
「やり直し」
「トラファルガーさん」
「駄目だ」
「ロー……さん」
「さんは要らねェ」
「トラさん」
「遠ざかってどうする」
「キャプテン」
「ベポか」
「……うわあ!無理です!シャチ、ペンギン助けて!」
ローに肩をがっしり掴まれているせいで身動きが取れないイヴは目線だけをローの斜め後ろにいるシャチとペンギンに向け、助けを求める。
「無理だって言ってんじゃないすか、船長」
シャチが含み笑いをして言う。
「てめェ……」
ローが首をシャチの方向に捻って睨み付ける。
「今だ!」
ペンギンが言うとイヴがさっとしゃがんで肩を掴んでいるローの手を抜くとその場から素早く離れ、ペンギンとシャチの元へ。
「船長さん、こわい……」
涙目でシャチの繋ぎをぎゅっと握った。
シャチはそのまま抱き締めてしまいたい気持ちをぐっと堪えてイヴの頭を撫でた。
「……可愛すぎんだろ」
ペンギンがぼそりと溢した。
「心の声漏れてるぞペンギン」
「名前で呼べと何度言えば分かる、イヴ。」
ローが目を鋭くさせてイヴに近付く。
「無理です!船長さんは船長さんなので!」
イヴがシャチの背後に隠れる。
「そんな急に言っても駄目っすよ船長」
「……ちっ」
シャチの言葉にローは舌打ちをして測量室を出て行った。
測量室はベポ、シャチ、ペンギンの仕事場でもあり憩いの場でもあった。
「……怒らせたかな」
「拗ねてんだろ、自分だけよそよそしい呼ばれ方して」
ペンギンがソファーに座ってコーヒーを手にした。
「だって、船長さんは、船長さんだよ。対等な呼び方なんて出来ない」
「まあ、そうだよな」
シャチが後ろを向いてイヴの茶色の柔らかい髪を再び撫でる。
「イヴに名前で呼んで欲しけりゃまず威圧的に言うのをやめるべきだよな。」
「シャチやペンギンとは違うよね、やっぱり」
「おれ、船長じゃなくて良かったと思う」
「奇遇だな、おれもそう思う」
「うーん、でも、怖がっちゃって何か申し訳ない事したから謝ってくる!」
イヴは測量室を飛び出してローを捜した。
恐らく船長室だろうと行ってみるといつもより不機嫌な顔をしたローがソファーに座っていた。
「あの!さっきは怖がってすみませんでした!」
ローがイヴを一瞥すると「もういい。好きに呼べ」と立ち上がって本棚に向かった。
「えっと、トラさん!」
ローの背中に呼び掛けるとローがゆらりと振り返った。
「それだけはやめろ」
「じゃあ……ローさん」
はあ、と溜め息を吐いてローが「こっちに来い」とイヴを呼び寄せた。
イヴが呼ばれるままローに近付くとぐいっと腕を引かれて抱き寄せられた。
「わ、びっくりした」
「まあ、前よりましにはなったな」
「えへへ、ローさん、ローさんっ」
イヴはローの背中に手を回した。
「ローさんに抱き締められると、いつもどきどきしますね」
心地良く上がっていく心拍数に顔を綻ばせる。
「シャチに抱き締められると安心するし、ペンギンは何だかお兄ちゃんみたいで暖かいし、ベポはぬいぐるみを抱いてるみたい。みんな大好きです。」
「……そうか。」
『イヴはみんなのもの同盟っすよ、船長!一線越えるの禁止!キスも禁止!』
『惚れさせりゃ別だろ』
『こればっかりは船長にも負けるわけにはいかねぇな』
『とりあえず成立ってことで!』
面倒な同盟を組んだとローは後悔した。
「……邪魔してごめんなさい。じゃあ戻りますね」
「ああ。」
ローは「失礼します」と頭を下げてとことこと部屋を出ていくイヴの背中を、扉が閉まるまで目で追った。
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