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イヴは本船から持って来た、食材を入れた麻袋からじゃがいもと玉ねぎを数個取り出した。
「お前 料理出来るのか?」
「まあ見てて」
イヴはシンクでじゃがいもを洗うと、包丁を持ち、慣れた手つきで皮を剥いていく。
薄く長く繋がった皮がシンクに落ちると、可食部分を無駄なく残したじゃがいもがイヴの手に残った。イヴはあっという間に取り出した分のじゃがいもの皮を剥いて見せた。
後ろで不安そうに見ていたローは、「ほォ」と感心しながら顎に手をやった。
「ワノ国の料理、好き?」
「ああ」
「うちの父も好きでね、母から教えて貰ってワノ国の料理を作るのは得意なの」
「ヘェ」
「それとさっきローが釣った魚を焼きましょう。おにぎりもするわ」
「上等だな」
「待ってて」
「手伝うか」
「出来るの?」
「医者だからな」
「ふっ、答えになってないじゃない」
イヴが吹き出したように笑った。
「じゃあこれ切って貰おうかしら」
「ああ」
ローがひとつ頷いてカウンターの前に立つと、イヴが包丁と綺麗に皮が剥かれたじゃがいもをひとつ手渡した。ローはまな板に渡されたじゃがいもを置くと、包丁を強く握って背中を丸めた。
ローは眉を寄せて包丁とじゃがいもを凝視し、おそるおそる包丁を入れた。まるで母親の手伝いをする小さな子どもの様な危なっかしい手つきに、イヴははらはらと緊張した面持ちになった。
「大丈夫?手、切らないようにね?」
「……料理した事ねェんだ」
「……やっぱり私がするわ」
「いや、おれがやる」
「じゃあ教えるわね」
ローは素直に頷いてイヴへ包丁を渡した。
イヴがローに説明しながらひとつ切って手本を見せた。
「……意外だな」
「私が料理出来る事?」
「ああ」
「良い奥さんになるわよ、どう?」
イヴがそう言ってローに向かって微笑んで見せた。
「……そう言うのは」
ローが目を伏して額に手を当て、ぼそりと呟いた。
「ん?何?」
「何でもねェ。大体分かった、今度こそおれに任せろ」
ローはイヴの手から包丁を奪うように取ると、つい先程とは打って変わって、軽快な手つきで残りのじゃがいもを切っていった。
「流石お医者さんで剣士。飲み込みが早いのね。じゃあ私は他の事してるわね」
イヴは手際よく作業を進め、ローの手伝いもあって、料理はイヴの予想より早く出来上がった。
肉とじゃがいもの煮物と味噌汁におにぎり、焼き魚が小さなテーブルに並べられると、二人は向かい合って座った。
ローがフォークを手にして、イヴが味をつけた煮物を口に運んだ。
「美味ェ」
「本当?良かったわ」
にこにこと嬉しそうにローを見つめながらイヴが言った。ローは夢中で食べ進めるが、イヴはそんなローを見つめ続けるだけで料理に手を付けていなかった。
「お前は食わねェのか」
「ええ、作ってるだけでお腹一杯になっちゃって」
ローが怪訝そうにイヴの顔を見ると、一層眉間に皺を寄せた。
「体調良くねェだろ。良くみりゃ顔色が悪ィ」
「……船酔いかしら」
「休んでおけ」
「いえ、せっかく作った料理をローが美味しそうに食べているんだもの、見ていたいわ」
「何だそれは」
「まあまあ、気にしなくて良いから」
微笑みながら両手で頬杖をついてローに視線を送り続けるイヴに、ローは困惑しながらも、もぐもぐと口を動かした。
「美味かった」
テーブルの上の物を綺麗に完食したローが言うとイヴは「お粗末様でした」と返した。
「さて、お前は寝る時間だ」
「でも」
「後片付けならおれがやっておく」
「……あなたも良い旦那さんになりそうね。じゃあお言葉に甘えるわ」
ローはそれ以上言葉を発することなく、ささっと空の食器を重ねてシンクへと運んだ。
イヴは席を立ち、洗い物を始めようとするローに近付き頬に口付けた。
「ありがとう」
「それはおれの台詞だ」
至近距離で目が合うと微笑みあって、どちらともなくキスを交わした。
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