*59



トラファルガー・ローの七武海加入が正式に認められてから、ローは一人で旅に出ることが多くなった。
初めは二日、次は四日と、ローはイヴを残して船を空けた。特にイヴに行き先や目的を伝える事もなく、イヴもわざわざ訊き出すことはしなかった。
それにしても今回は長いな、と心配するイヴは広く感じる船長室で一人溜め息を吐いた。ローが船を空けて七日目の朝だった。
突然船内が明るくざわつき始めた。それはお決まりの、船長の帰還を喜ぶ船員の声だった。船長室のロングソファーに座っているイヴの耳にも入り、そわそわとした様子で前髪を整え始めた。
ローは重たそうにドアノブを回して船長室へと帰って来た。


「今戻った」

「おかえりなさい」


逸る気持ちを抑えてイヴは淡々と返した。ローは酷く疲れた様子でふらふらとソファーに近付き、スプリングが一度跳ね上がりイヴの身体が浮き上がる程の勢いでどかっとイヴの隣に腰かけた。


「お疲れみたいね?」

「ああ……」


ローはそう言うと倒れ込むようにイヴに体重を預けた。


「わ」


イヴは咄嗟に落ちてきたローの頭を受け止めると、ゆっくりと太腿の上に乗せた。ローはそこから内側に九十度、身体の向きを変えイヴの腰に手を回した。そしてまるで子どもが甘えるかの様にローはイヴの太腿に顔を埋めた。


「イヴ……」

「ん?どうしたの?」

「呼んだだけだ……」

「そう」


普段の冷悧なローとはギャップのあるその姿に、寂しかっただとか文句を言う気も失せて、イヴはローの硬い髪に触れた。
目を閉じたローの身体から次第に力が抜けていくのを感じた。


「寝るならベッドで寝たら良いのに……」


イヴの言葉が耳に入ったのか、ローは「んん……」と小さく唸った。
しかしローからはそれ以上の反応はなくイヴもまあいいか、と手持ち無沙汰にローの寝顔を見つめていた。

五分程経ち、イヴも釣られて目を閉じかけた頃、ローがはっと目を開けて起き上がった。
イヴがそれに反応して目を開ける頃には、イヴの唇はローによって塞がれていた。
ローはイヴの口内を激しく貪った。


「ん、んっ……き、急にどうしたの?」

「寝る前に一発ヤろうかと」


ローは言い終わると同時に再びイヴに深いキスをした。キスをしながらイヴの胸に触れようとした時、イヴがその手を遮って唇を離した。


「だめ」

「どうしてだ」

「うーん、とにかく今はだめ」


イヴは目線をローから離して言った。


「……そうか」


ローはそう言うと立ち上がり、欠伸をしながらベッドへ移動し、寝始めた。


そのまま昼過ぎまで眠りについていたローはその後、空けていた一週間の出来事などを船員やイヴから訊きながら過ごし、夜を迎えた。


就寝の支度を終えたローとイヴはいつもの様にベッドに入った。
ローが腕を伸ばすと、イヴは慣れたようにその二の腕に頭を乗せた。
何度かキスを重ねて、ローが舌を差し込もうとした瞬間、再びイヴがそれを拒否した。


「……出来ねェのか?」

「うーん……」

「体調良くねェか」

「いや、そうじゃないの」

「どうした」


返答に困ったイヴは口を噤んだ。


「おれが一週間も船を空けたから拗ねてんのか」

「違う、そうじゃなくて」

「じゃあ」

「そういう気分になれなくて……」

「やっぱり拗ねてんじゃねェか」

「違う」

「愛想尽かしたか」

「そんな訳ないじゃない」

「だったら何故」


煮え切らない返事を繰り返すイヴにローは苛立ちを覚えながら「もういい」と眉間に皺を寄せながら目を閉じた。



次の日も、またその次の日も、イヴはローからの誘いを曖昧に断り続けた。




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