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「ああ、もう!」
イヴが船長室のソファーに置いてあるクッションを壁に投げつけた。
ローは荒れて戻ってきたイヴの様子で、何があったのか察知した。
「だから、考えて行動しろと言ったんだ」
「でも!」
「イヴ」
「海賊だって言っただけよ!?それだけで」
「イヴ」
ローはソファに座ったまま体勢を変えず、鋭い視線だけをイヴに向けた。イヴはその威圧感に言葉を詰まらせた。
「落ち着け。お前も元海軍なら、海賊が普通の奴らにどう思われているかなんて分かってるだろ」
ローが持っていた海図に視線を戻した。
「……悪者ばかりじゃないわ。それは海軍に居た頃も思っていた事よ」
イヴは疲弊した顔でローの横に腰掛けると、背凭れの襠部分に頭を乗せた。
「難儀なものね」
「そんなもんだ」
ローがペットの犬を宥めるようにぽんぽん、とイヴの頭に触れた。
「何とかならないかしら」
「荒立てる事はするなよ」
「わかってるわ」
「怪しいもんだな」
「でもこのままじゃ納得いかないし、ペンギンが可哀想」
「下手な同情はやめとけ」
「下手でもなんでも、何かしなきゃ収まらないタチなの」
「……どうするつもりだ」
「明日、あの子ともう一度話をしてくる。海賊嫌いにも理由があるのかもしれない」
「一人でか」
「いいえ、ローも一緒によ」
ローが予想外の言葉にその据わった目をイヴに向けるが、イヴは天井を見つめたままだった。
「何故おれも」
「恋人だから」
「関係ねェだろう」
「関係あるわ。まあとにかくついてきて」
イヴが頭を上げてローと目を合わせると、ローが面倒くさそうに大袈裟な溜め息を吐いた。
「……仕方ねェな」
イヴは「ありがと」と軽快に言いながらウインクをして見せた。
「ローのそういう所、好きよ」
「お前のそういう所も悪くねェ」
ローが口端を上げて言った。
「どういう所?」
「自分で考えろ」
「よく分からないわ」
「分からなくて良い」
「……まあ良いわ。好きで居てくれるのなら」
イヴが顔を近付け、一度軽くキスした。
「疲れたから一眠りするわ。晩御飯までに起きなかったら起こして。おやすみ」
ローが片手をイヴの頭に回すと、今度はローから口付けた。
「ああ。おやすみ」
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