※31




「ロー……」


口元でその名を呼んで今度はイヴからキスをした。
ローはイヴの額に数回キスを落として、ゆっくりとイヴの身に付けているもの全てを脱がした。
ベッドの上で素肌のままになったイヴの心臓が段々と五月蝿くなっていく。
ローは上に着ているものを脱いでイヴに覆い被さった。


「何だかすごく緊張するわ……」

「無理はするなよ」

「随分治ったとは言え、こんな身体で抱いてなんて、変な話よね」

「そんな身体でも抱きてェと思うおれは変か」

「ええ、十分変だわ」


ローがイヴの首筋に舌を這わせる。


「ん……っ」


舌の動きはそのままに、乳房を撫で回す。初めて聴くイヴの甘い声に、ローは一層の興奮を覚えた。


「イヴ、愛している」

「私も、よ……んっ」


イヴの身体を愛でるように舐めながら、段々と下へ降りていく。


「……っ、あ……っ」


ローがイヴの異変に気付いたのは、イヴの中に中指を挿入しようとした時だった。
イヴの身体が小刻みに震えていて、シーツを強く握っていた。


「……どうした」

「……どうもしてないわ……」

「震えている」


ローは動きを止めてイヴの顔を覗きこんだ。その顔は、興奮と恐怖が入り交じった、複雑な表情だった。


「……トラウマってやつね」

「何があった」

「……襲われたって、言ったじゃない」



『良い女じゃねぇか!』

『やめて!』

『良い度胸だな、この数相手にしようってか!ほら、脱がせ!』

見知らぬ男達の手が、モノが、自分の身体を汚していく。
抵抗すれば殴られ、その行為が狂気を感じる程乱暴になっていった。
違うと分かっていながらも、重なる。
消そうとしていたいつかの記憶が嫌でも蘇ってきて、イヴは下唇を噛んで眉を顰めた。


「愛のある行為は別だと思ったけれど……」

「すまねェ……知らずに」


イヴに跨がるのを止めようとローは片足を浮かせたが、イヴが阻止するようにその手を握った。


「ううん、して……忘れたいから、して」

「だが」

「……そうよね、犯されて穢れた女は嫌よね……」


イヴの目に涙が溜まり、一筋横に滑り落ちた。

「違ェ!」


突然ローが大きな声を発し、イヴの肩が反射的にびくりと上がった。


「お前をそんな目に遭わせた奴は誰だ!おれが殺してやる……!」


ローは悔しさに奥歯を噛み締めた。


「……ロー、怖い目をしないで」


イヴに言われても尚、鋭くした目を直す事は出来ず、目を逸らした。


「……おれがやれば死なねェ限り外傷は治せる。だが、心に付いた傷は治せねェ」

「治せるわ」


イヴがそっとローの両頬に触れた。合わせられたローの目は、少し丸くなっていた。


「だって、あなたは私の愛する人だもの。だから」


イヴは真剣な目をして言った。


「治して」


ローは何も言わずに右手をイヴの左手に絡めた。
唇を触れ合わせて、舌を絡めた。イヴもそれに応える。
先程より優しく、確かめるような深いキスにイヴも夢中になった。


「んんっ……」

「愛している」


口元で囁いて、軽くもう一度口付けをした後、イヴの身体の全てを愛するように、時折愛の言葉を口にしながら様々な箇所に何度もキスを落とした。


「好きだ」

「私もよ」

「愛している、イヴ」

「好きよ、ロー」


イヴの中に再び指を挿入しようとする頃には、イヴの身体の震えや緊張も無くなっていて、ローの目から見てもイヴの恐怖心が無くなっている様子が窺えた。
ローは今度は躊躇う事なく、その中へと指を挿れた。


「あっ……ぁんっ……」


イヴが目を細めてローの指を感じた。
ローはその指を奥にやり、ゆっくりと動かした。


「ああっ……ロー……!すき、好きよ……っ」


イヴの心の中にはもうローしか居なかった。
ただローが愛してくれている喜びが心を支配して、イヴは「好き」と何度も繰り返し口にした。


「あっ、あぁっ、ロー、すき……っ」


ローは指を動かしながらイヴに深いキスをして、唾液を絡ませた。


「愛しい女のこんな姿を見ると、こんなに嬉しくて興奮するものなんだな」

「ねぇ、ロー……っ」

「ああ」


ローが徐にそそり立つモノを露わにすると、イヴの足を開き、そこにあてがった。


「足は痛くねェか」

「ええ、平気」

「怖くは、ねェか」


不安そうに訊ねるローの頭に手をやりくしゃっと乱すと、イヴは穏やかに笑って見せた。


「今は、あなたの事しか考えられないの。単純な女かしら」

「複雑な女よりましだ」

「愛してる?」

「愛してる」


イヴがふふ、と笑うとローはフッとクールに口角を上げた。


「らしい顔してる、そんなローも大好きよ」

「綺麗に笑うお前も愛しい」


もう一度笑い合うと、ローはイヴの中に徐々に挿入した。


「あっ、んっ……!」

「平気か」

「うん……っ、ああっ……!」

「イヴ……っ」


段々とローのモノが入って行く。奥に行くに連れてイヴの喘ぐ声も大きくなった。
最奥へと辿り着くと、ローは小さく動き、反応を確かめた。


「あぁっ……、ロー……、大丈夫だから……っ、動いて……っ!」


ローは遅い動きで膣内を行き来させる。イヴはそれでもローからの愛を大きく感じた。


「ぁあっ、ロー……っ!すきよ、ロー……っ!」

「イヴ……っ、愛してる……!」


お互い、何度口にしても足りないと言う様に愛の言葉を交わした。
ローは激しく愛し合いたい気持ちを抑え、速度は早めずじっくりとイヴを愛した。


「ぁあっ、あっ……んんっ、ぁん……っ!」

「……っく、出そうだ……っ」


愛する女と身体を重ねれば、 欲望のままに激しくしなくても快楽へ導けるのか、とローは興奮する頭の中のどこか隅の冷静な部分で、初めての感覚を知った。
出したい欲が急激に強くなり咄嗟にイヴから抜くとすぐに、溜まっていた物がイヴのお腹の上に吐き出された。



「……ロー、ありがとう」



イヴが全身の力が抜けたように表情を緩ませると、もう一度「愛している」と口にしたローが、喜びの色を滲ませて口元に弧を描いた。




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