*15
虹の掛かった島に船を着けたハートの一味は、そこで一晩を過ごす事にした。
船を下り、森を抜けた先にあった街は、全体が繁華街のようで人が多く賑わっていた。日が落ちるとローと数人のクルーは酒場に飲みに出掛けた。
「楽しそうな街ですね」
テーブルで飲むクルーと離れて、カウンターで一人酒を煽るローの隣にペンギンが座った。
乾杯、とばかりにペンギンはグラスをローに寄せた。
「何もねェ所だと思ったが、騒がしい街だな。」
ローはまるで水のようにアルコールを身体に流し込んでいく。
「こういうとこで飲む酒も久しぶりですね。」
「ああ。」
ペンギンも二杯目の酒をマスターに頼んだ。
「どうですか、イヴは」
「……特に変わりはねェよ。少し身体が動くようになっただけだ」
「エースの公開処刑が決定したようで。そこら辺は上手くいってますか?」
惚れさせることが出来てますか、と遠回しに聞くペンギンにローは苛立ちを覚え眉間に皺を寄せた。
「……分からねェ」
「そうですか。」
ローがイヴのことを考える回数は確実に増えていた。
最初はどうとも思ってなかったが、思い出す度に段々と心臓が締め付けられるような、跳ねるような思いがするようになっていた。
それが何故なのか理解出来ず、ローは不快に思った。
今もそうだ。気持ち悪ィ。
空になったグラスを持って「強ェやつを。こいつの分もな」とペンギンを指差してマスターに頼むと、グラスと引き換えに黄金色の酒が注がれたショットグラスがふたつ出された。
「テキーラか」
「いきますか」
そう言いつつそれぞれの前に置かれたショットグラスを手にすると、流し込むようにテキーラを飲んだ。
ローは、熱くなる喉に心地良さを感じた。
「……なあ、船長。」
「何だ」
「おれ、イヴの事が好きです。」
その突然の告白にローは少し目を大きくした。
「イヴの事を想うと心が締め付けられるような思いになるし、容態もいつも気にかかるしあの笑顔を見ると思わず唇を奪ってしまいそうになる。あいつの慕うエースに嫉妬もしてしまう。あいつからエースという名前を聞いただけで不快な気分になるんです。」
ペンギンが静かに笑う。
「それが好き、と言う想いです。」
「……好き、だと」
好き、の言葉にローの目は更に開かれた。
「ええ、そうです。」
ペンギンはチェイサーに出されたビールに口を付けた。
「……自分の想いに気付きましたか?……ああ、おれがイヴを好きなのは半分は嘘ですので、ご安心を。」
「……いけ好かねェな」
ローは目の前に置かれたビールの泡が消えていくのを暫くじっと見つめた後、一気に飲み干し空のビールジョッキをガンッとテーブルに置いた。
「……おれがあいつに惚れたとして、お前は、それでいいと思うか」
「悪い理由なんてありません。」
ペンギンはそう言って口角を上げると、ローがおもむろに席を立った。
「……船へ戻る。」
「お気を付けて」
ローは酒代をテーブルに置いて鬼哭を持ち、いつもより早い足取りで酒場を後にした。
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