140字まとめ

■欠落

旅の話をしてよ!とせびられ、語って聞かせようとして、言葉に詰まる。ああ、また、と思う。また、忘れてしまっている。なにか、何か大切な思い出があったはずだ。浮かぶのは窓の外の白い夜。暖かい部屋。暖炉。そう、あれはクルザスの。風が吹く。風が攫う。奪う。



■よそのこ/ウツロギちゃん

翻る裾を見上げる。よく乾いた白は陽光を受けて光るようだった。
「君は昼のひまわりだな」
言うと、布が地面に降りるように軽やかに着地した少女騎士が振り返って、言葉を返す。
「まぶしい?」
そうしてまた、風を受けて舞うように跳ぶ。その姿は、或いは、散りゆく空木の花弁だった。



■内緒話

あなたは英雄ですか。
「そうかもしれないな?」
どうやったら英雄になれますか。
「出来ることをやるだけさ、簡単だろう」
はぐらかしているんですか。
「まさか」
「ただ俺は、きみが英雄と呼ばれる日が来ないことを、願うばかりだ」



■知らない場所から来た人

無限の光の下、日焼けた森で男が言うことには。
「乗り越えたりなんてしてないさ。引き摺っていたらいつの間にかなくしていたんだ」
「帰りたいとは思わなかった。本当はただ、もう帰るところがわからないだけさ」
「それでも前へと歩くのは、俺の意志に違いないよ」
落ちた影で顔がわからない。



■1/14

山の上に立っている。靴底が踏みつけるのは脚。靴底が踏みつけるのは腕。靴底が踏みつけるのは顔。靴底が踏みつけるのは同じ形。彼は山の上に立っている。彼は唯一だが、彼等は同じ形をしている。いつか靴は代わる。その靴底が踏みつけるのは彼。それでも、彼等は同じ形をしている。



■よそのこ/ヨルガオくんのうしろ

冷えた空気が床を這う。冷気を閉じ込めた蓋が開いたような。
「(あ、)」
前を。毛並みだけは春の色をした黒魔道士が歩いている。彼の後ろに、蓋の開いた穴が居る。
黒い鱗が濡羽色に反射して、ふいに真朱と目が合う。冷えた空気を吐き出しながら、その穴からは、ごう、と炎の音がした。



■英雄

――の戦士さま、どうか祝福を。やわい命を、こちらからしてみれば無造作に抱かされる。生まれて間もない子は、身動ぎもせずそこに収まった。何かを斃すことでしか何かを救えない腕だ。
祝福、と、口の中で呟く。まだ何にでもなれる子供。英雄が施すそれは、呪いになりはしないだろうか。



■まちぼうけ

白いローブの女がこちらを見つめていた。光の戦士は、それを視界の隅に認めていながら、特に気にした様子はない。
恨めしそうな視線。背中を伝う嫌な気配。どうにか顔を背け、アレは何かと問うと彼は「亡霊」と答えた。
「恐ろしくないのか」
「慣れたんだよ」
女が薄く笑ったようだった。



■#この台詞を使って1コマ漫画 /ボズヤにて

土埃。怒声と銃声。血と泥水。肉眼ではそうそう見えないはずの魂が、溶けて消える様を幻視する。ここはエーテルが濃い。地面に染みて滲むくらいに。
黒ずんだ、薄い色の髪が風に吹かれて揺れている。
「……とっくに知ってたよ」
男の足元には、たった今、物も言えぬ肉と化した人間。



■よそのこ/レプくん

女店主は鮮やかな手付きで、絶えず酒を注いでいく。賑やかな酒場は、東方でもアラミゴでも先陣を切ったという解放者の話で持ちきりだった。
「少し前まで、迷子の子猫のようだったのにね」
氷が音を立てる。酒の肴にもならない。ショートソード片手に駆け回る姿が、遠い昔のように思えた。



■ザ・バーン

死んだ土地の、白い砂のような結晶は灰に似ていた。第一世界の、平らに均された白い地平線はどちらかというと雪原に似て悲しみの方が勝ったが、永久焦土と呼ばれるここは中途半端に建造物がいくらか残っている上、吹く風にムラがあって、なんだか余計に虚しさが増すようだった。



■うらみごと

むき出しの心臓に触れられたような心地だった。ざり、と、引っ掻くように撫でられたような気さえした。
「あなたさえいなければ」
女の慟哭の、掠れたそれに続く言葉は、今だけは聞きたくなかった。いつもならちゃんと聞いているから、どうか今だけは、あの燃える夕陽が沈み切るまでは。



■暁の暴力装置

命のやりとりの何がそんなに楽しいのだろう。刃が空を切る。血飛沫と砂埃。獣の咆哮と、呼応してふるえる喉。それらの全てが静かになってから、時々そう考える。命のやりとりの、何がそんなに楽しいのだろう。戦うことをやめられない自分は、災厄のようなあの男と、一体何が違うのだろう。


■伝聞_1

英雄だとばかり思っていたので、彼がただ穏やかに微笑むのを見て、拍子抜けさえしました。いっぺんの影も残らず照らすような、強烈な光ではないことに気が付いて、私は。私達の過剰なこの期待が、中身のない殻だけが、私の足元を照らすのだと知りました。彼はただ穏やかに笑んでいました。



■伝聞_2

「その殻は何も救っちゃくれないよ」と、彼は血塗れの腕を私に伸ばしました。周囲には魔物と、彼が駆けつけるまでに肉になったひとが散らばっていました。私は、数日前の自分の考えを、改めるべきかどうかを考えていました。閃光というのは、あるいはこの世のどこにもないかもしれません。


表紙

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -