先を歩く人

「ミンフィリア」

 まだ聞き慣れない低音が、彼女を呼んだ。
 振り向くと、金の髪がふわ、と舞って、彼女は木陰にいた男を見つけた。銀の髪。ユールモアでは見かけなかった、暗い色の肌のミステル。

「えっと……ガジト、アザリ、さん」
「ガジでいい。みんなそう呼んでるし」
「……ガジさん」
「うん」

 燦々と、光の音が聞こえる。少し前にサンクレッドが、本当は光に音なんてないことを教えてくれた。光属性のエーテルが強すぎるあまりに、音が発生しているのかもしれないそうだ。
 そのミステルの男は、日陰から動かないでいた。つい最近こちらに来たばかりだそうだから、もしかしたらこの光に、慣れていないのかもしれない。少女がまだ彼の声を聞き慣れていないように。
 夜というものが、未だに何か、よく分からないけれど。

「ミンフィリア。……君がその名を、もし、……、いや」

 あんまり眩しくて、余計なこと言ったな。男はそう笑って、やっと日陰から這い出て--実際はちゃんと立って歩いていたのだけれど、少女にはそのように見えた--彼女の隣に並んだ。そのまま、皆が居る方へと歩きはじめる。「まだ夜がないのに慣れていないんだ。ムーンキーパーは夜行性だから、どうにも余計に、変な感じがしてさ」
「やこうせい、ですか」

 夜を知らない少女には、やはりその生態は未知のものであるらしい。歩きながら、こうして二人で話をするのは、初めてだったかもしれないと思った。

「明るいうちに寝て、暗い夜に活動する。目の形もちょっと違うんだ。暗い場所でもよく見えるように、小さな光でも見逃さないようになってる」
「でも、ここはとても明るいから」
「そう。だから眩しくて。光もなんだかうるさいし」

 彼は、"あちら"では光の戦士と呼ばれていたのだという。少女が光の巫女(ミンフィリア)であるように。大罪人ではなく、英雄としての、光の戦士。
 白い肌に金の髪。暗い肌に銀の髪。たぶん、夜の色。いつの間に遅れたのか、少しだけ前をゆく、同じ色の、尾が、バランスを取るように、揺れて。

「夜が戻ったらさ」

 闇の戦士の--英雄の名が良く似合う男。空の全部が光るから、屋外では人が立ってるだけでは影が落ちなくて、見慣れているはずなのに浮いて見える。
 燦々と光が鳴っている。
「もっと、静かになるよ。……軽くなるかもしれないし。俺が何とかするからさ」

 その靴が土を踏みしめる。ぐ、と、重みの分だけ沈み込む。
 足元を見下ろすと、彼の足跡がある。横に自分の足を置いて、踏みしめる。重みの分だけ沈み込む。二回りほど小さな足跡が、並ぶ。

 燦々と、光が鳴っている。



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