ジャックは包帯の巻かれた腕を擦りながら思慮する。ただぐるぐると。そしていつも同じ場所に辿り着く。

「どうして、こうなっちゃうんだろーね」

赤を吸いきれずふやけた大地の上に立って、彼は思慮する。
新品で真っ白だったはずの包帯を見た。右腕の、手首より少し上。固くもなく緩くもなく丁寧に巻かれたそれ。まだあの日の体温の名残があった。

ひ、と息を呑む音がする。
積み上がった山の影で何かがもぞりと動いた。

「……残念だったねえ。あとちょっとガマンしとけば死ななかったのに」

そう言って一度鞘に戻した刀を抜く。

ばかだなあ。君も、僕も。
ねえねえ、僕らは何の為に戦うと思う? 君は何の為に戦う?
僕は、僕はね。大切な人が居るんだ。大事な大事な、きょうだいとおともだち。君にも居たのかなあ。だったらごめんね。
アレもコレもソレも、みんなみんな世界が残酷な所為だと思うのだけれど君はどう思う?

振りかざして、また大地が赤を吸った。だから答えがいつまで経っても得られない。

彼は思慮する。
どうしてこうなってしまったのか。

自分は傷だらけで、周囲は死体だらけで、赤は溢れてしまっていて。誰のものか分からなくなった血に染まった包帯を擦る。彼は思慮する。答えの得られない問について、ひたすら考える。
さして日も照っていないというのに、陽炎がゆるく、揺らいだ。

「どうして……」

ジャックは思慮する。彼の大切なものについて、溢れてしまった赤について。
ただ、ぐるぐると。
赤の道を引き返す。点々と黒い影。彼が裂いたひと達だった。
抜き身だった刀をゆっくりと丁寧に鞘に戻し、空手になったその身で黒い影のひとつに歩み寄った。朱い布切れに抱かれた少年、彼のクラスメイトがそこに横たわっている。既に絶命し、黒の髪も赤に濡れ虚ろな翠の瞳で空を見上げていた。
立ち上がれば彼と同じくらいの背丈はあるのではないだろうか、長身の少年の腕を掴み肩を貸すような形で担ぐ。刀を軽々と扱うジャックには造作もないことだった。
そのまま、帰るべき街へ歩く。

黒い影が点々と。黒い煙も点々と。ひとも鋼機もみんな裂けた後で、街であったはずの建物からは火がごうごうと燃え、叫び声すらも消えた戦場。
流した赤で溢れ、そこに動くものは炎と彼ひとりだった。


▲ 私は酸化していく
錆びて銹びて寂びて


title by 浮世フレィズ


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