赤い、紅い、空が、朱い。
丹い、赭い、地が、緋い。
血が、あかい。

『何がそんなに苦しいの?』

問うてきたのは、正面に立った子供。まだ10歳にもなっていないだろうか、鋭い瞳が印象的な少年だ。赤い空と赤い大地と赤い街と俺と子供と。それ以外には何も見当たらない。目だけで辺りを見回した。ゆがんだ窓、歪な扉。

『ねぇ、何が苦しいの?』

子供の声がこだまする。無駄にエコーがかかって気持ちが悪い。現実味の欠けた、それでいてどこかリアルな世界。居心地は恐ろしく悪いが、居場所はここしか無いと思えた。

『赤いから、息が苦しい』

特に何も考えないで返事をする。血色の赤に染まった風景が喉を締め付けるようだったから。

『どうしてここは赤いと思う?あの子がまだ泣いているから?あの子がまた耐えているから?』

俺と同じ金の髪が揺れる。彼の両手には銃。俺の両手にも銃。無機質な冷たさが痛い。
どさりと黒い塊が落ちてくる。どさり。どさり。塊は人の形をしていた。街が黒で埋め尽くされる。やがて液状に融けて消えた。尚も落ちてくる塊は止まない。どさり、どさり、どろり、どさり。まるで人の死のようだ。たくさん死んで、皆忘れられていく。どさり、どろり。

『それとも僕が、それを望んでいるから?』

子供はその景色を見ようとしない。きりがないと解っているのか。鋭い瞳は、絶望を含んでいた。どさり、どさり、黒い塊は止まない。

『お前は、望んでいないだろう?少なくとも俺はこんなの望まないが』

緋色の目が、同じ色の俺の目を見据える。少し笑っているようにも見えた。

『そうだね。僕はあなただ。あなたが望んでいないなら、僕はこれを望んでいないよ。僕も、赤いのが苦しい』

これは夢だと叫ぶ俺がいる。だが、手も足も動かない。他人の体のようだ。どさり、どろり、また誰かが忘れられていく。

『僕はこれから、どこへ行くのかな』
『お前は何処に行きたいんだ?』

ここで初めて、子供が目をそらす。そうして自分の手の中の銃を見た。

『……平和なところ。みんながずっと幸せでいられるようなところ』

やはりこれは夢だ。だってこの子供は俺なのだから。

『それは、難しいな』
『うん。難しい。だから僕は、今を守りたい。みんなが少しでも笑っていられるように、幸せでいられるように。……こんなものを持つのは、僕の手だけでいい』

ふと気が付くと景色が変わっていた。昔、俺達が育った施設。外では子供達が笑い声をあげて遊んでいる。目の前の子供も外を見つめている。眩しそうに目を細めた。

『守れる、よね?』

キングもこっちにおいでよ、と子供達の内の誰かが呼んだ。彼が走っていく後ろ姿を見届けたところで、目が覚める。

日の光が暖かいベンチ。裏庭に響く笑い声。青い空が眩しくて目を細めた。

「キングさん、目が覚めたんですね」
「本当だ。キングもこっちにおいでよー」

優しい少女の声と、間延びした少年の声が俺を呼んだ。立ち上がって側へ歩いていく。
大丈夫。必ず守れるさ。
彼と俺自身に誓おう。


▲ 右手に銃を、左手に花を


title by 不在証明


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