道の端でふらふらと赤いマントが歩いているのが見えた。俺のような一般兵でも、見たことはないが朱雀の者だとはすぐにわかった。無機質極まりない皇国の首都、白い街に赤は異質であった。かなり目立つ。ちなみに一般兵、といっても俺なんかはもうただのお巡りさんみたいなものである。戦争に出向いたことは今のところない。
人気のない道路で(本当に俺とそいつしか居ない)ふらふら散策なんかをしているようだった。今は停戦中だから暇なんだな。と思って見ていたら、そいつが近づいてきた。そうだ、赤いマント。それって朱の魔人とやらか?

「すみません、道を教えてもらえませんか」

何をされるのかと思えば、魔人に道を聞かれた。散歩していたら、ホテルの場所が解らなくなってしまったらしい。ついさっきまで殺しあっていたのに、呑気なものだと思う。まぁ俺が兵には見えなかったというのもあったのだろう。ちょうど今日は休みだったから、制服を着ていなかったし。
前にいるそいつは薄い金の髪をしている、空と同じくらい青い目で、男か女か判別に苦しむ微妙な顔立ちの(でも多分男)子供だった。俺も軍ではかなり若い方だが、彼らの方が数倍若い。近所で暴れまわる子供たちとそう変わらないではないか。噂には聞いていたが、まさかここまでとは。
ホテルへの道はそう難しいものではないので、簡単に説明する。ああそんなに近かったのかと彼は言った。やはり魔人なんかには見えない。ただの子供である。が、目だけは違った。多くの死を知った者の目だった。

「……ここは雪ばかり降っているが、花とか咲いたりするのか?」
「たくさん、というわけではないけど、季節になればちゃんと咲くぞ。生憎、今は花の時期ではないが」

そんなこと聞かれるとは思わなかった。いや、軍のこととか聞かれても困るんだけどさ、流石に花の話振られるとか普通は考えない。

「見てみたいな……」

あどけなさの残る顔と、闇をひそめた瞳。多くを知っているようで、何も知らない少年。戦うことより、世界を学ぶべきだとさえ思う。
ありがとうと一言告げて、彼は立ち去ろうとした。これからまた彼等は戦場へ向かうのだろうか。
死ぬなよ、と言おうとした。口を開きかけて、慌てて言葉を呑み込む。彼も俺もいつ死ぬかもわからない。そもそも敵同士だ。直接戦うことはないかもしれないが、それでも本来相容れない者のはずである。
だから、

「いつか戦争が終わったら、その花、見に来いよ」

彼は振り返って少し笑った。

「そうだな。そうするよ」

その"いつか"は多分来ないけれど、それでも。


▲ 雪の華


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