親愛なる友へ
あれから2年が経ちました。お元気ですか。俺は元気です。
今日は3人の人が亡くなりました。そして5人の人が生まれました。命は相変わらず、ただ巡っていきます。君は幸せでしたか。俺達は幸せでした。
今日死んでいった3人に祈りを、今日生まれてきた5人に誓いを、幸せでありますように。


「マキナ、またここにいたのか。レムが探してたぞ」

風になびく少し伸びた金髪を掻き上げ、ナギは声をかけた。彼は黒髪を揺らし振り向く。懐かしい朱を背にした、いつものマキナがそこにいた。

「あんたもまた、ここに来たんだな」

そう、少し笑って言った。もう崩れてしまったかつての教室に、今は亡き戦士達が作ったつぎはぎの赤い旗が風を受けてはためく、いつもと変わらぬ日常。
人影はまばら、ここに訪れる人は少ない。みんなそれぞれ新しい仕事に追われている。過去を振り返って立ち止まる暇などないのだ。
青い空が眩しい。鳥が飛んでいく。あの鳥は、平和の象徴。廃れた魔導院は、過去の象徴。みんな前だけを見て歩んで行く。そんな中で、マキナもナギも過去にしがみついて生きている。でなければ、毎日ここへは来ない。いくら暇でも、毎日手紙は書かない。
大切なものを守る代わりに、二人は大切な友人を失った。
マキナは彼等の手を振り払ったことを後悔している。
ナギは彼等に本当の笑顔を向けられなかったことを後悔している。
悔やんでも悔やみきれない。泣いて叫んでも、謝罪も感謝も何も届かない。今更、遅い。
二人はただ怖かった。他人を失うことが、自分を曝け出すことが。
ぶつかって傷付きながらも、それでも彼等は二人を受け入れた。笑顔で手を差し伸べた。

『マキナの馬鹿が帰ってきたら、レムを頼むと伝えてくれ』
『ナギもあとはよろしくね〜』
『いってきます』

決戦の日、出撃の直前に、ナギのもとにやってきて彼等は言った。そして翌日、手を繋いで寄り添って眠っているのが見つかった。呼んでも呼んでも、目を覚ますことはなかった。冷えきった手が、永遠に彼等に会うことが叶わなくなったと告げていた。
そんな彼等に何も返すことができなかった自分が悔しくて、だから毎日ここへ来る。だから毎日届かない手紙を書く。
白い封筒に、マキナはいつものように火をつけた。灰を想いを風に託して、ナギは空を見つめた。言えなかった言葉と、笑顔を添えて。誰かが誰かの為に供えた花が、宙に舞った。


親愛なる友へ
これでちょうど1000通目です。お元気ですか。俺達は元気です。
今日は1人の人が亡くなりました。3人の人が生まれました。命は相変わらず、巡っていきます。君は幸せでしたか。俺達は幸せでした。みんながいたから、幸せでした。今も、少し寂しいけれど幸せです。
ずっと言えなかったけれど、みんなのことが大好きでした。その手を握れなくてごめんなさい。最後まで信じてくれてありがとう。
たとえ君に届かなくても、俺は手紙を書き続けます。5000通でも10000通でも。今日はダメでも明日なら、何かが変わるかもしれないから。
死んでいった命よ、また逢いましょう。生まれたきた命よ、おかえりなさい。これからの人生が、これまでの人生が、幸せでありますように。


つぎはぎの赤い旗がはためく。
空は快晴。今日も平和です。


▲ この声が届く精一杯


title by 不在証明


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -