! ゆるいNL
「――、つまりこれは……シンク、聞いていますか?」
「きいてるよぉ。リフレのメニューで何が一番おいしいか、だよねー?」
「違いますよ。メニューの話はしていません。そもそもメニューというのは――」
廊下を歩きながら延々と蘊蓄を披露するトレイの横を、シンクがその固く結われた髪を揺らしながら歩く。笑う彼女が嘘を吐いていることを、この男は知らない。
なんだかなぁ、とセブンは笑った。噛み合っているのか、いないのか。この二人は見ていてとても面白い。シンクはトレイの話を聞いている。いつも遮らないように、話しやすいように相槌を打つ。一字一句聞き漏らさないようにしている。今のも、シンクが聞いていなかったとは思えない。リフレのメニュー。あれも大方、トレイの声を聴くための嘘だろう。ほんとうに面白い。相槌を打つシンクが、とても嬉しそうだ。
これからまた二人で勉強会だろうか。参考書を抱えていた。トレイもトレイだ。嫌なら嫌と言えば良いのに、文句を言いながら結局シンクを手伝う。
昔からそうだったなと、セブンは小さくなった後ろ姿を見送って、また微笑んだ。
筆記用具の片付けをしながら、シンクは笑顔で相槌を打つ。時々からかいながら、彼の声を聴いている。トレイは蘊蓄を語りながらも、シンクに解らないところは無いかと聞く。普段よりも優しい声で。
そんなトレイがシンクは好きで、そんなシンクがトレイは好きだった。
「これ終わったら買い物付き合ってねえ」
「いいですよ。何を買うのですか?」
▲ 相槌に愛を込めて≫ title by
不在証明