本当の自分を隠すために、良く出来た仮面を手に取りました。道化のようなデザインのそれは、気味が悪いくらいに満面の笑みを浮かべていました。見ていてあまり気持ちが良いものではありませんでした。それでも僕は仮面を着けます。それが役割なもので。

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ジャックの席は遠い。一番隅の、教室を全て見渡せる位置、そこが彼の居場所。いつも誰かを笑わせようとする彼が、誰よりも遠い、兄弟のように育ってきたクラスメイトでさえ違和感を感じるほど人から離れた席に当然のような顔をして座っていた。
何故その席なんだ、とナギに聞かれて。
特に深い意味はないよ、とジャックは笑って返した。
何故笑うんだ、と聞かれたから。
笑いたいから笑うの、と答えた。
ジャックは嘘を吐かなかった。彼が人から離れた席に座ったのだって、深い意味なんてなかったし、笑いたいのも確かだったから。
理由はそれだけではなかったけれど。

「でも、ナギも同じでしょ?」

たまたま0組の教室にいただけの、くすんだ赤のマントが揺れた。ジャックの席よりもさらに隅の方で苦しそうに笑って、そうかもな、と言った。

テラスへ出ると、人気のない場所でエミナがぼんやりと外を眺めていた。視線の先にあるものを詮索しようとはせずに、決してそこにあるものを見ようとせずに、ジャックは声をかけた。エミナはすぐにこちらを向いて、あらジャック君じゃない、どうしたの?と聞いた。エミナさんの声が聴きたくなった。ふわふわ笑って言ったら、ありがとう、と彼女はくすくす笑った。
二人が居るよりも下階、もっと広い方のテラスからは、少年少女たちの笑い声が響いていた。
透明な玻璃のようなその声を聴き入っていたら、エミナも同じようにしていた。
それから二人は、他愛のない話をした。昔のクラサメがどうの、今はどうだの、ごく普通の会話を交わした。
透明な声達は、耳に貼り付いたようにずっと聴こえていた。

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気味が悪い笑い顔の仮面を手に取りました。それがいつの頃だったかは忘れてしまいました。何のためだったかもう解らないけれど、誰かに仮面を外されたくはないので、皆のことは離れた所からいつも眺めていました。羨ましいとは思いません。だってこれが、僕の役割ですから。
今日も満面の笑みを着けます。まだ使いこなせていないけど、おどけたように、道化のように、踊ってみせます。

昔、この仮面を見付けた時、道化の顔は3つありました。小さな女の子がそれを1つ、誰かに手渡されたのが見えました。もう1つは僕が取りました。最後の1つに、泣きそうなお兄さんが手を伸ばすのを見ました。


▲ マスカレイド・サーカス
消えて無くなるのは、何


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