脇腹を流れる血を見て、ケイトはため息を吐いた。遠く瞳に映るのは、崩れていく街。
此処は何処。
ここはどこ。
これは夢?それとも現実?
脇腹から流れ、スカートを赤く染め、足を伝い、黒いソックスをローファーを濡らし、滴り落ちるこれは何?

そこまで考えて、ケイトはまたため息を吐く。何度も何度も繰り返した疑問を、今度こそ捨てて、ずるずると座り込んだ。
周囲には誰も居らず、薄暗い霞んだ空気を纏う。此処が何処か解らない。夢か現実かすら解らない。

脇腹の傷に痛みはなく、これは夢なのかもしれないと思った。だが、負傷の全てに痛みがあるわけではない。特に死に際は無痛であることを、ケイトは知っていた。

どちらにせよ、この傷では死は避けて通れないだろう。
たとえこれが夢であれ現実であれ、このまま死のうが生きようが、どのみち目が覚めるのは自室。夢ならただ目覚めるだけで、現実なら生き返るだけ。
まるでゲームみたい、ケイトは小さく笑った。コンテニューするかしないか、選べないゲームみたいね。そう言って、脇腹を押さえる手に力を込めた。

繰り返して繰り返して、何度もやり直して。でもゲームじゃないから、なかったことにはできない。コンテニューする度に増える傷も、それは無いことにできない。
真っ赤に染まる手のひらを腹から離し、地面に着けて崩れそうな体を支える。これがもしゲームだったら、残機はどのくらいだろう。あと何回やり直せるだろう。あと何回で終わってしまうのだろう。

自分の血で濡れた銃を見て、デジャヴ。どこかで見た光景。時々感じる既視感は、夢で見たからなのか、やり直す前に見たのか。それとも今が夢なのか。
いつが現実で、夢か、解らなくなってきている。確かめる方法などない。ただ繰り返すだけ。
瞼が重い。ぬらりと睡魔が首をもたげて、意識が沈む。眠い。死んでしまうのだろうか。

『さあもう一度、初めから』

何処からか声が聴こえた。空からのような、頭の中からのような。ケイト自身に選択権はなかった。決めているのは彼女じゃないのだ。

「(ああでも、どうせ)」
「目覚めるのは自室なんでしょ」

コントローラーを握っているのは誰だ。選択権を、運命を握っているのた誰だ。
ケイトの記憶はそこで一度途絶えた。

暗い闇を漂って、温い空気を吐く。薄い光が見えて、ケイトはそこへ向かって歩き出した。夢と現の狭間。もしくは、生と死の狭間。光の向こうに見えるのは、見慣れた天井。きっと自室だ。
これは夢か。それとも現実か。終わらないゲームはいつ始まった?

目覚めたのはやっぱり自室で、デジャヴ。あれが夢だったのか現実だったのか確かめようと、血が流れていたはずの脇腹を見ようとした。夢なら傷はなく、現実ならば真新しい傷があるばすだ。
だが、服をめくりかけて前から傷だらけだったことを思い出して、止めた。

「(ほら、やっぱり。確かめる方法なんてないんだ)」

何度もやり直して、繰り返して。リスタート、コンテニュー。これは何回目?

そんな日常を、ぐちゃぐちゃの毎日を彼女らは生きる。ケイトがまだ戦っていられるのは、彼女が強いから。何をも恐れずに前を見ることができるから。
コントローラーを握る誰かを見つけたくて、でも何も出来ない。そんな世界に嫌気が差す。馬鹿みたいにボタンを連打するように、前だけを見てただ引き金を引いた。その弾丸が画面の向こうへ届くわけでもないのに、ただ前を見た。

戦場に立つ度に、夢でないことを確かめたくなる。それは一種の病気なのかもしれない。寝ても覚めても悪夢を見る。いっそ強制終了したらどうなるだろうと考えたけれど、電源を無理矢理抜けばデータは消えてしまう。ケイトどころか、世界が崩れてしまうのだ。

再び戦場に彼女は立つ。細かな装飾の銃を構えた。傷だらけの脇腹がひきつって、これは現実であるのだと久しぶりに確信できた。
今なら、この下らないゲームを終えることが出来るかもしれない。ふとそんなことを思った。
失敗したらまた繰り返しの毎日。死のうが生きていようが目覚めるのはどうせ自室。
チャンスはきっと、今しかない。

『さあもう一度、初めから』

前を見据え銃を握って、デジャヴ。これも以前したことがあるのかもしれない。それでも何処からか聴こえた声に向かって、凝った造りの引き金に指を掛けた。


▲ 指先に力を。
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title by 不在証明


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