時々、何処も怪我などしていないのに身体が痛むことがある。右腕、左肩、足首、脇腹。動かせないことはないが、動くことは億劫だ。リヴァイは椅子に浅く腰掛け、後ろへ凭れて天井を見た。何もないからいつも通りである。
何が原因なのかは知らないが、時間が経てばもとに戻るのでいつも何でもないフリをしていた。痛みに乗じて部下の死に顔がフラッシュバック。きりりと何かが軋んだ。

さて、とリヴァイは立ち上がった。あまりだらだらしてはいられない。兵士長というものは何も戦うだけが仕事ではないのだ。整理された書類を数枚捲る。
時計の長い針が真下を差した。あと30分で会議。

ふと棚を見ると、豆の入ったビンが幾つか並んでいた。どれも珈琲豆だが、どれが何かという知識をリヴァイは持ち合わせていなかった。適当に掴んだビンの豆で珈琲を淹れる。白いカップに湛えられたそれは、見目はいつものものと何ら変わりはない。
背中の痛覚が叫んだ。

「……不味い」

カップに口を着けて、一口。眉をしかめて静かに呟く。いつか飲んだこれは、こんなにも不味かっただろうか。ただ苦味だけを主張する液体はもはや飲み物とは呼べない。
リヴァイはつい先日まで煩いほど賑やかだった部屋に独り佇む自分を、俯瞰で見ているような気になった。何とも寂しい光景だと少し嗤った。

彼女らはその間際に何を思ったのだろうか。彼は一生知り得ないのだ。知る術はとうに失われてしまった。死体は口を利かない。
痛む右手を無理矢理棚へ伸ばした。使わなければカビが生えるだけのビンを手に取る。暫く眺めて、元の場所へ戻した。もう、これほど多くの豆は必要ないかもしれない。そもそも彼には、どれを使えばいいのかすら分からないのだ。既に隅の方には緑の塊が見える。

脳裏に焼き付いた彼女の目が、何かを言おうとした。リヴァイは目を閉じて痛みをやり過ごした。
珈琲を飲み干す。いつのまにか、あれらはぼやけて消えていた。空になったカップの底に自分を見たとき、長針がカチリと会議の10分前を告げた。



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