※グロテスクギャグにしたかった




 刀剣男士達の、刀身ではなく人の身の方の傷に対する反応は、各々によって異なる。人間のように痛みを感じ、不要な怪我を避けて戦うものが殆どであったが、一部のものはそうではなかった。まるで痛みを無いものとして扱うのだ。避けれる攻撃を避けず、肉を切らせて骨を断つような戦い方をする。今日もその一部のもの達が、見ているだけで失神ものの大怪我を拵えて戻ってきていた。
 この部隊は戦闘になると我を忘れるものが非常に多い。故に端から馬を与えられておらず、徒歩で帰城した彼等の周囲は既に血溜まりであった。

「ああ、またそんなにしてしまって。誰が治療すると思ってるんだい」

 帰城の鐘を聞き駆けつけた蜂須賀虎徹が、左腕を右の手で持って帰ってきた山姥切国広に言った。彼は至極当然のように「審神者」と短く答えた。いつもは白い布の、左側は真っ赤に染まっている。

「手入れの方はね。手当てをするのは俺と薬研なんだけどな」
「別に放っておいてもいいのに。刀が治れば戻るんだし」

 そう言うのは山姥切の後ろを歩いていた大和守安定だ。彼は拾った資材を右肩に背負っているが、玉鋼の詰まった袋からは誰かの腸がはみ出ている。大和守自身に大きな怪我は見当たらないので、彼のものではないらしい。見落としかけたが首に矢が貫通している。器官も急所も外れているのだろう。

「それで良いのは君達だけだよ。本丸を血塗れにしないでくれ。で、それは誰の"中身"かな」
「蛍」
「俺でーす」

 呆れたような蜂須賀が声の方を見ると、腹から血を滴らせた蛍丸が燭台切光忠に背負われていた。蛍丸は何でもないことのように、ちょっとしくじった、と言う。戦闘狂の集まりと化したこの部隊、最後の良心である燭台切の顔が青いのはいつもの事で、蜂須賀は手入れを終わらせたら鳴狐と五虎退を呼ぼうと思った。アニマルセラピーというやつである。

「全く、雅じゃないね。ああ蜂須賀、主への報告は僕がしておくから、蛍の"中身"を詰めておいてくれるかい」
「君も大外にしてくれないか歌仙。その状態で主の所まで行くつもりじゃないだろうね」

 部隊長補佐であるはずの歌仙兼定の顔は他の誰よりも赤く、右の眼が見当たらない。雅の基準を問いただしたくなったのは蜂須賀だけではないだろう。このまま審神者のいる部屋ーー屋敷の奥に入られると目も当てられない惨事になるのは想像に難くない。畳の汚れは落としにくいのだ。

「おや、忘れていたよ。じゃあ隊長にお願いしよう」

 歌仙の言葉に、うええ、と嫌そうな声を上げたのは部隊長の御手杵だ。

「それは俺の仕事じゃないだろぉ」
「戦場で指示を出すだけが隊長じゃないよ」

 御手杵は上着こそ血塗れだったが、滴るほど汚れてはいない。返り血なのだろう。蜂須賀もそれならば止めずとも良いか、と横着して縁側から上がろうとする御手杵を見逃し手当ての算段を付けていた。
 のだが。

 ゴン、と鈍い音がして、あいて、と間抜けな声がした。ついでにべしゃっと、ちょうど水浸しの雑巾を縁側に落としたような音もした。

「良い音がしたな」
「脛、痛そう」
「俺と同じとこに怪我してたもんね」
「もう少し持つかと思ったんだけどな」

 蜂須賀は静かに天を仰ぐより他なかった。燭台切の顔がまた青くなる。インナーが赤のTシャツだったことを考慮しなかったのが、今日の蜂須賀の敗因だった。

 その後、蜂須賀と薬研藤四郎、さらに手先の器用な宗三左文字と堀川国広により蛍丸と御手杵の中身は無事に詰められ、山姥切の左腕も繋げられる。歌仙の右眼も嵌め込まれ、大和守の矢は引き抜かれた。
 そして呆れ顔の審神者により、御手杵の内臓がぶちまけられた縁側の掃除はそのまま五振りに命じられたのだった。

 余談であるが、ここの本丸には後に燭台切光忠の為の"ふれあい動物園"が設置されることとなる。


▲ アフター・ザ・パーティー


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