※カニバリズム




 目の前に用意された西洋風の食事に、椅子に座らされた彼は濃褐色の瞳をきょろきょろと動かした。
 テーブルと呼ばれる卓に、真っ白い布が掛けられ、白く丸い皿に乗った何かの肉と黄色い目玉。ナイフとフォークが一揃。同じく真っ白い西洋の部屋。窓も戸もない。
 黄色い目玉には彼が映り込んでいる。
 彼はフォークを手に取った。常より刺すしかできないと言う彼にとっては馴染みのある食器。
 白い部屋の白いテーブル、白い皿に赤い肉。
 ぐるぐると腹が鳴る。
 何かを忘れている気がする。
 濃褐色の瞳は赤い肉を見ている。
 黄色い目玉が死んでいる。

 さて、と誰かが呟いた。

 フォークがずぶりと肉を刺す。赤い赤い肉が彼の口へ、そして喉へ食道へ胃へ。彼の姿は黄色い目玉に映り込んでいる。
 鉄の味だ。
 別の誰かが、おてぎね、と彼を呼んだ。彼は目玉にフォークを刺した所だった。

 白い部屋は彼一人。
 何かを忘れている気がする。
 溢れる何かを飲み込んで、彼は手をつけなかったナイフを見た。
 とても大事な、何かを忘れている気がする。
 さあ、力もついただろう、戦の用意をしておくれ。最初の誰かがそう言った。別の誰かが彼を呼ぶ声はしない。

 銀色に輝くナイフをじっと見ていると、何かを思い出しかける。あの黄色の瞳を知っている。あの色の持ち主を、知っている、いた、はず。
 安いナイフは装飾もなく、飾り物ではない。ただ肉を切る為だけにある。
 何かを思い出しかける。

 さあ、と誰かが言う。彼は椅子を引き立ち上がった。強くなったんだよな、と自分に問いかけながら、部屋を出て行った。名残惜しげにナイフを見つめて。

 黄色い目玉は彼の胃の中で、ゆっくりゆっくり溶けていく。

 誰もいない白い部屋の白いテーブル、白い皿のとなりにナイフとフォークが一揃。
 次の肉が並ぶ。
 次の肉が並ぶ。

 刀帳の最後の頁、一二八番に連結済の判が押されている。

 次の肉が並ぶ。


▲ 白いダイニングルーム


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