転生パロのようなもの。原型を留めていない人名があります。




 そうだなあ。あれが始まったのは、冬、だったと思う。11月くらい。耳鳴りがしてさ、すごい冷や汗かいたんだよ。アアアア、って感じの、耳鳴りにしちゃ低い音だった。普通に高音なんだけどな。しばらく響いて、そのうち遠くなって聴こえなくなった。1分くらいかなあ。それだけなんだけど、冷や汗は凄いし気分悪いし、何より数日おきに耳鳴りがするからさあ、ほんと、堪ったもんじゃないよ。それがあんまり続くもんだから、年末あたりに耳鼻科行ったんだけど何も問題ないって言われて。問題ないわけないんだけどなあ。仕方ないから無視してたんだよ。
 −−ううぅん、別に、耳鳴りに法則がある感じじゃなかったなあ。急に来るんだ。強いて言うなら、夜が多かったかな。
 それで、関係あるのかどうか、俺、どうも火が苦手になったみたいなんだよ。それまでは全然平気だったのに、コンロの火とか古い型のストーブとかさ、直火? が駄目になった。こわい、ってのに近いのかなあ。そう、その冬のあたりから。ゆらゆら揺れる火を見てると、じりじりして、逃げなきゃ、って思うんだよなあ。なんでなんだろ。
 その後もずーっと耳鳴りは止まなくてさ、いやほんと、凄い迷惑で。さすがに慣れて冷や汗はかかなくなったんだけど、気分悪いのは相変わらず。ほんと勘弁して欲しかった。
 あとは、そうだなあ……夢見が悪くなったな。凄い踏んだり蹴ったりだよな。俺が一体何をしたっていうんだ! いやまあ、単位は何個か落としたことあるけど。
 −−夢の内容? それは全然覚えてないな。朝起きたらさっぱりで。でも、ものすごく怖かったり、清々しかったり。そう、それが清々しいんだけど超怠いの朝。動き過ぎたみたいな。夢遊病を疑ったよな、違ったけど。わざわざカメラ回したんだぜ。半分以上好奇心で。
 あとは−−そう、まだあるんだよこれが。本当に踏んだり蹴ったりだよ。
 そうそう、なんかたまに、鉄錆みたいな臭いがしてなあ。血じゃないと良いんだけど。気持ち悪いよな。でもなんかちょっとテンション上がってたと思う。なんでだろうな。そんな趣味ないのに。ちょっと懐かしい感じがしたんだ。

 3月くらいかなあ、高校んときの友達に会ってさ。地元で偶然。榊原正国っていうんだけど。あいつ元から人相悪いのにめちゃくちゃ怖い顔しててさあ、久しぶりって感じで声かけようと思ったら掴みかかってきたんだよマジびっくりした。ゲーム借りパクしてたのが遂にバレたかと思ったね。そしたら正国が、お前それどうした、って。凄い剣幕で。元から顔怖いけど比じゃなかった。どれがどうしたのか全然分かんなかったから黙ってたんだけど−−いやいや別にビビってたわけじゃねーよ? ちょっとびっくりしただけだし。で、黙ってたら正国が俺の腕引っ張って、近くの公園に入ったの。慌てて抵抗したんだけどあいつめっちゃ力強くてさあー俺も剣道部入ってたらあれくらい筋肉付いたのかなあ。とにかくめっちゃ強かった。
 ああ、えっと、正国は別に霊感? とかなかったと思うぞ。肝試ししたときも何も言ってなかったし。近所の有名な心霊スポットだったんだけどなあ、あれは肩すかし食らったよ。というか正国に霊感あったら俺幽霊に憑かれてたってことになるじゃん。やばい。
 何の話だったっけ……ああ、そう、公園に入って、そんで、正国が砂場の砂引っ掴んで、持ってろって言ったんだよ。いやーあの時は公園に誰もいなくて本当良かったよ。大泣きされるぜあれ。だってめっちゃ顔怖いもん。取り敢えず持ってたコンビニの袋に詰めさせられた。山盛り。まだ持ってるよ、あれ。いや本当に怖かったんだって!
 でも砂持たされてから、耳鳴りがちょっとだけマシになったんだよなあ。なんでだろ。超能力とかあったりしてな。その日は正国が急ぎの用事があったらしくて、そのまま別れた。あとでメールしたんだけど、砂持ってろってのと、なんかあったらすぐ連絡しろって言われた。これ本当に幽霊だったらどうしような。でも心配してくる正国ってちょっと、いやだいぶ貴重だった。顔めっちゃ怖かったけどめっちゃ心配されてたわ。今気付いた。あとでメールしとこう。

 相変わらず耳鳴りも鉄臭いのも、あと火が怖いのも夢見が悪いのも続いたんだ。その頃には耳鳴りのアアアアって音と一緒に、人の声が聴こえてる気がしてなあ。気味が悪かったよ。なんて言ってるのかは聞きたくなかったから、ちゃんとは聞いてない。
 あー、あとたまに、信号機くらいの高さから見下ろしてることがあったな。普通にしてる時に。夢じゃなくてな、こう、俯瞰っていうの? 自分を見下ろして見てた。幽体離脱かなあ。さすがに冗談言えなかったよ、もう疲れてたし。驚きすらなかった。強いて言うなら、やっぱり懐かしい感じがしたよ。

 それで5月に、5月の25日に、一番大きな耳鳴りがきたんだ。アアアアア、って、あと人の声がして。今までで一番、気味が悪かった。火もないのに逃げなきゃって思って。とりあえず持たされた砂袋握り締めた。その時は家に居たんだけど、まあ誰もいなくてなあ。携帯はちょうど電源が切れたとこだった。
 しばらく耳鳴りを聴いてたんだけどな、手ぇとかガッタガタに震えてるし、たぶん顔色も凄いことになってたと思う。1分くらいしたら治って、深呼吸して顔上げたんだ。
 俺の目の前に俺が居たよ。
 鏡じゃなかった。
 とっさにドッペルゲンガーだって思ってな、ああこれ死んだなあって。俺によく似てたけど、あいつはたぶん人を殺せるよ。
 そしたらあいつ、ちょっと笑ってさ。へら、って。なんか泣きそうにも見えた。そんで、言ったんだ。たぶん俺と同じ声で。
「巻き込んでごめんなあ。俺やっぱり、人間になるのは止めとくよ。あんたにも悪いし。ドータヌキには、あんたから謝っておいてくれ」って。
 ドータヌキって誰だよ、そんな狸知らねえよって言う余裕はなかった。だから今言うわ、ドータヌキって誰だよ! というか耳鳴りとかってあんたのせいかよ!
 それから、あいつ、どろどろに燃えて消えてったんだ。どろどろ。溶けてた。でも笑ってたよ。

 これで終わり。あいつが消えてからは耳鳴りも鉄臭いのも夢見が悪いのも全部ぱったりなくなった。結局何だったんだろうな。
 あんたドータヌキって知ってる? --ああ良かった、知ってるんだな。俺は分かんないからさ、伝言、頼むよ。−−うん。ありがとう。
 −−火? ああ、どうだろうなあ。でももう大丈夫だと思うよ。あのへんは全部、あいつのだったんだと思う。もう居ないみたいだから、大丈夫だろ。最期も苦しくなさそうだったし。

 うわ、もうこんな時間か。俺明日学校だからここらで帰るわ。伝言だけ、よろしく。−−課題終わってないんだよ。笑い事じゃねえよ。
 じゃーな、神主さん。こんな話聞かせて悪かったな。

 あっ忘れるところだった。そのドータヌキってやつに会ったら、これ渡しといてくれよ。正国に渡された砂袋の中にいつの間にか入ってたんだ。溶けてるし、たぶん無関係じゃないと思ってさあ。指切るなよ、これ結構切れ味良いから。
 うん。じゃあまた。ドータヌキによろしく。


△△△

 −−ああ。そんなことがあったのか。いや、謝られても困るしどーでもいいンだけどなァ。−−分かった分かった。これは受け取っとく。

 御手杵は来なかったから、今んとこは俺とアンタくらいになるのか。
 −−いいや。結城義助はただの人間だ。御手杵に似てただけの。俺は、同田貫正国に似てただけの。アンタだってそうだろ、石切丸に似たただの人間。ま、結局神職なんだから、全くの無関係とは言えねーんだろうなァ。

 高校ン時は何も無かったんだぜ。ちっとばかし揺すってみたが、義助は御手杵じゃなかった。それが何で今になって……やっぱ槍の考えることは分かんねェな。
 −−俺か。俺は、そうさなァ。同田貫にはそのつもりは無かったんだが、榊原の方が飲み込んじまったんだ。ガキってのは何でも口に入れるからな。
 刀の魂を飲み込んだところで、力もねェし、変わらず人間だぜ。俺もアンタも。まァ、ちょっと筋力は高めだが。難しい事を考えるのは止めだ。そういうのは嫌いなんだよ。良いじゃねえか、人間ってことで。アンタ、最近石切丸を飲み込んじまったから混乱してんだろ。割り切れ。石切丸は刀で、アンタじゃない。たまたま似てて、たまたま飲んじまっただけだ。

 ……探しゃあ他にも見付かるんだろうが、別に良いだろ。居たら居たで面倒な奴等ばかりだ。
 じゃ、俺帰るわ。何かあったら呼べよ。もう何もできねェけどな。
 あと義助には狸じゃねェって言っとけ。


▲ さよならドッペルゲンガー


結城義助
 私立大学の2回生。伸び過ぎた身長を持て余し気味。翌週サークルの集まりでBBQをして楽しんだ。課題忘れの常習犯は結局提出できなかったらしい。

榊原正国
 結城の高校時代の友人。進学せず就職した。久しぶりに会った友人の顔色が尋常じゃなく悪くて柄にもなくめちゃくちゃ心配した。

神主
 困ったら取り敢えずそこで御祓いをして貰え、と言われるほどオカルト界では有名な砌神社の神主さん。ご近所のお婆様方に大人気。


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