わたくしはトレイ、彼とは違います。知りたいとは思わない。ジャックほど拒絶はしないけれどもやはり、知らなくても良いことというのは幾らでも存在するのです。好奇心のまま欲望のままに、その知を満たすのは、いつか一度くらいは彼を殺すのでしょう。
そう、知らなくても良いことというのは、ありふれています。右を見ても左を見ても。どこにでもあるものです。それらさえも手当たり次第に知ろうとするのは、ある種の禁忌を犯すことでもあると思いますよ、わたくしは。賢明であるとは言えません。
ああ、だからこそわたくしは、彼が苦手なのでしょうね。彼の知識には目を見張るものがあります。彼は博識です。しかし賢明ではない。その点で彼は幼いのです。
わたくしは。彼ほど幼くなかったけど、盲目でした。見えているのに、知ろうとはしませんでした。手を伸ばせば、マザーのしていることをわたくしならば知ることができたでしょう。それでも、あの闇に見向きもしなかった。知らない方が良いことだと、分かってしまったから。彼が暴いてしまうまで、そうして絶望してしまうまで、あの闇を気にしながら過ごしました。マザーの、母の愛に、目を固く閉じて。でもそれは、間違いだったのかもしれません。

赤くなった不気味な空の下、兄弟達の叫びや異形の断末魔を聴きながら、走馬灯のように考えていたのですけれども。今度こそ本当に消えていくこの命に、辛うじてぶら下がった今、やっと判ったような気がしました。

無知は罪ですが、あえて無知でいることほど非道いものは無いのです。これまで、いったいどれだけの魂を喰い潰してきたというのでしょう。賢明ではないけれど博識な彼なら知っていたのかしらと、いよいよ薄れる意識の底、それを言葉にする前にわたくしは唯一の命を手放してしまいました。

マザー、ああ母よ。わたくしが死んでしまっても、彼等は、いいえ彼は、これまで喰い潰してきたものの一つだと割り切ってくれるでしょうか。まだどこか幼い彼の枷にならないか、そればかりが気掛かりです。


▲ ダイヤモンドに遺言
硬いが脆い彼のこと


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