幼いテノヒラをそっと掴んだ。ああ良かったと込み上げる涙を飲み込む。忘れなくて良かった。小さな傷にまみれた、まだ柔らかい手。なんて痛々しい、その場に居てやれなかったことと助けてやれなかったことが悔しかった。
遅くなってごめんねと精一杯の笑顔を向け、がんばったねと言う。情けない。せめてもう少し上手くやればいいのに、笑みも声もデタラメで下手くそだ。
弟は弱々しく泣きながら、うん、頷いた。横の少女がへたり込むのを抱えてあげる。少し自分の腕には重たいが、それどころではないのだ。悔しくて情けなくて腹が立つ。
そして痛々しいコドモ達が生きていてくれたことに、信じてもいない神に感謝する。

息をついて、ようやく辺りを見れるようになって大人達が騒がしいことに気が付いた。ざわざわ、そわそわしている。俺達が目に入らないくらい。それはそうだ、ウイルスが撒かれただのミリテスの化学兵器だの、戦争が始まるだの、真偽も怪しい情報で混乱しているのだから。今の今まで自分もその一員だったのも思い出した。本当のことは何もわからないが、ただ故郷が燻っている煙だけは、未だ細く見えている。近くに居た人が家族や知り合いの安否を気にして、忘れた面影がないか名前を指折り数えていた。

さて、これからどうしようか。無けなし小銭とコドモ達を連れて、どこへ行こう。ひとりを抱えて、ひとりの手をひいて、俺はどうすればいいだろう。聞いて答えてくれる人も、道を示してくれる人も、覚えていない。もう居ないのだ。彼等を、コドモ達を、守る者はもう。

「(ああ、本当に、ふたりきりの兄弟になってしまった)」

ぐずぐずと安堵から涙を流す少女と弟に、殊に明るい歌を歌いながら、途方に暮れる疲れた足を鞭打って歩く。
細い煙が揺れていた。


▲ 雨が降る前に


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