きれいな金の髪だった。同じくらい、きれいな蒼の目だった。話し掛けると、にへら、と表情を崩し、目を細める自分と歳もそう遠くない少年。
よく似ている、と思った。

閑散としたリフレッシュルームで、昼下がりのぬるい温度を残しままの椅子に腰掛け、私達は話をしていた。その場にいた者は、みんな何かに夢中で、私達のことなど気に止める様子は無かった。0組だと騒がれたり畏れられたりすることのない、息のつける時間。
私はアイスティをストローで転がしていた。彼は、オレンジジュースを。
朱のマントが翻る。0組なのだという彼は、どこにでも居そうな候補生だった。
ただ一点を除いて。

「きみは、優しいんだね」

そうだろうか。

「うん。だって、そういう目、してるよ」

そうか。

「……また、出撃するの?」

お前も、だろう。

「……うん」

からん。アイスティの氷が一際大きな音を立てた。彼は、汗をかいたグラスを指でなぞって、ののじを描いて遊んでいる。
その姿が、ひどく、ひどく子供染みていた。年不相応だとすら思った。

今こうしている間にも、もしかしたら遠くで銃声が響いていて、誰かが泣いていて、ここはそういう世界だ。
刃を抜くことも魔法をヒトに向けることも当たり前になっていた。

「いきる、って、何だろう」

呟いた少年は、オレンジジュースを見つめている。
いきる、とは、何か。
私は彼の言葉を反芻した。ぐるりと思考が一回りして、元の場所へ帰り着いた。

タグだけになったとき、私達は死んだとされる。つまり、タグをなくしたとき、私達は死ぬ。
なくさない限りは死なない。持っている限りは生きている。ノーウイングタグは私達の生存証明で死亡証明なのだ。

それなのに、とそこで一度息をつく。
それなのに私達は戦場へ赴く度に、この魔導院にタグを置いていく。まるで死にに向かうように、足を運ばなければならないのだ。それは非常に可笑しな話だった。

ふと、横に目をやれば、彼がちょうどオレンジジュースを飲み終えた所だった。
深いブルーの瞳とかち合う。
底のない海の様だ。朱雀の回りを囲う青より深い。

「……じゃあ、もう時間だから」

そうか、と私は空のオレンジジュースに言った。
ジャックは、またね、と言い残してリフレッシュルームを後にする。私は飲みかけのアイスティで、先程彼がそうしたようにのの字を描いた。

彼はきっと、今日もまた人を殺すのだろう。証明書を戦場の外に置いて、誰かを記憶から落としていくのだろう。
そうしてまた、なんでもないとでもいう風に、にへら、と笑い、綺麗なブルーに影を落としていくのだ。
無論、私だって例外ではない。そういう様に、世界は出来てる。

磨かれたテーブルから目を反らす。その先に、ジャックの目を見た。
ああ、と私は納得する。
そこには鏡があった。いつも彼を見る度に感じていた既視感のようなものは、親近感に近いものだったらしい。色形が違えども、よく似た目だった。

いきる、とは、何か。

遂に空になったアイスティを持って立ち上がる。誰にともなく、またねと声にしないで呟いた。それが何だか、ひどく子供染みているようで、けれど首元で急に存在を主張したノーウィングタグが私達を子供のままで居させてはくれなかった。

さわさわと、ごく僅かの談話が耳に戻って来る。人殺しの集団に成り下がってしまった、一部では人間兵器と呼ばれる私達の平穏。血に塗れた手を隠し、疲弊した足を休め、いつ消えるかも分からない友人達と言葉を交わす。この空間は、子供が子供で居たいと願う、崩れそうな積木の城で。

またね。彼の台詞をもう一度だけなぞる。また、明日もここで。

最後にちらりと鏡を見た。その瞬間、不意に視界が赤に見えたのはきっと、きっとただのフラッシュバックだろう。

生きるとは何か。かつては知っていたはずの、簡単な問いの答えはなかなか戻って来そうになかった。


▲ 積木の城
神様の消えた楽園で


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