悪夢だ。

終わらない夢を見ている。
幸せそうな表情を浮かべた少女が、俺の名を呼ぶ。悪戯を成功させた子供のように(いや、子供なのだ)笑う少年が、後ろから俺の肩を叩いた。振り向いて俺は、幸せそうに、笑う。
そこには悲しみも苦しみも、戦争も存在しなくて。見知らぬ子供達が外を駆け回る。人を襲うモンスターも居ない。武器もない。血は流れない。幸せなのだろう。そうかこれはきっと、平和と、言うのだ。辞書でしか知らなかった世界だ。
子供達が、笑う、走る、騒ぐ、笑う、叫ぶ、駆ける、笑う、はしゃぐ、笑う、笑う。ああ、平和だ。血が流れない。俺は笑う。

これは夢なのだ。
だって空が青い。

煙でくすんだ黒じゃないし、土埃の乾いた白でも、血を溢したような気味悪い赤でもない、青。空が青いなんて絵本や昔話じゃあないんだから。俺の見る空はせいぜい霞んだパウダーブルーで、だからこれは夢なのだ。

戦争が終わるだって? 何年続いたと思ってる。終わるってんならどうして俺はまだ人を殺しているんだ。平和になるって? 辞書でしか知らない世界を、どうして作れるというのだ。血が流れないのが幸せ? じゃあ俺達のこれは何だ、血塗れの手を隠して下手な笑顔を被るこれは。俺達の幸せは何処にあるんだ。

また、幸せそうな少女が呼び、悪戯な少年が後ろから肩を叩く。俺は振り返る。笑う。
目覚めない。俺は、血や泥で汚すことしか知らないのに。平和の世界に、居場所はないと分かっているのに。何度だって思うが、安寧とやらを求める奴の気がしれない。そこに殺人鬼はお呼びでないのだ。人殺しに罪の大小はないから。あったところで、俺は間違いなく重罪人なんだろうけど。

空が青い。涙が滲むほど。
ああ。
悪夢だ。
終わらない夢を見ている。


▲ からっぽの繭
虚しいだけさと彼は泣く


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