切り捨てる、右側。崩れ落ちた視界で叫ぶ声は誰のものだ。
ジャックは右手に握っていた刀を両手で持ち直して、正面の化け物に叩きつけた。今日一日であまりに使いすぎてしまった相棒は、すでに刃としての役目を放棄してしまっている。文字通り、叩きつけた。飛沫。赤ではない。
化け物は腹を裂かれ倒れ込んだが、どうせまた甦る。また起き上がる。ファントマを抜いてしまいたかったが、余裕がない。斜め後ろに奴らの気配がしている。後ろを見ないまま、雑な魔法を投げ付けた。振り向き様に刀。また飛沫。
遠くか近くで兄弟の断末魔を聴いたような気がする。確かめる余裕も、ない。
むくり、さっき腹を裂いた化け物が腕を着いて動こうとしている。なんどもなんども甦ることが、こんなにも、恐ろしいことだとは思わなかった。朱の魔人は真に魔人であったのだ。
そんなことを曖昧に考えながら、ジャックはまた思考をゼロに戻した。上半身をもたげた化け物の首を狙って振り被る。

ずん。衝撃が走った。
気が付けば遠かったはずの壁に体をぶつけていた。
音も声もなく、傷付いた内臓が流した血を吐き出す。指が震えている。

怖い。こわいこわいこわいこわいこわいこわい、恐ろしい。殺しても殺しても甦る化け物が、迫る未知の死というものが、兄弟の息を感じないということが、こわい。
ぎゅっと目を閉じたくなったが、刷り込まれた記憶がそれを阻んだ。殺される、死ぬ、このままでは、しぬ、戦わなければ。そう、急かす。
伝えたい人に伝えていないことがあるんだ、兄弟に仲間に言いたいことがあるんだ、まだやり残していることがあるんだ、まだ果たしていない約束があるんだ、まだ、見ていない景色があるんだ。
ジャックは立ち上がった。化け物の如く、血塗れのまま何処かを睨んだ。吹き飛ばされても離さなかった刀を握る。

ほとんど忘れていた生にすがった。祈った。切に。ジャックは血を溢す。涙を溢す。崩れ落ちる視界で知らぬ神に叫んだ。

「    」

地を蹴って走り出す。今ようやく、心から願うことがある。


▲ 生者の行進
その果てが見えるか


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -