「ごめんね」

急に口を開いた。振り返ると、彼の長い睫毛が震えている。

「……何が」

息も絶え絶え、答えた俺の言葉は冷たくはないだろうか。血も混じって、寒さで白い息が心なしか赤い気がする。
ぽつりぽつりと降りだした雨が、彼の髪を叩いて落ちる。ワックスも弱くなって、いつもの青い眼が見えない。伝って落ちた雫が地面に染みを付け足した。

「マキナ、君の」

水滴が頬へぽとり。それではまるで泣いているみたいじゃあないか。

「その傷は」

俺の腕からは赤い水滴がぽたり。ついでに命とか云うものもぽたり。
彼の姿が滲んで消えてしまいそうなのは、俺の目が霞んでいるからなのだろう。

「ぼくの所為だ」

血を吸った彼の刀が鈍く光を反射した。太陽は、遠い。少なくとも俺には見えない。
下を向いてはいないけれど、下りた前髪で彼の目が見えない。だから、それでは泣いてるみたいだろう、ジャック。

「ごめん」

違う、見えないのではない。見れないのだ。彼が、俺の目を見れていない。

「……ジャック、お前の所為じゃない」

いよいよ本格的に意識がふやけてきた。血の所為だ、血を浴び過ぎたのだ。ジャックが泣いてるように見えるのも、血か雨の所為。
そんな顔をしないでくれよ。お前が悪いんじゃない、お前は何も悪くないんだよ。ただ少し、そう、運が悪かっただけさ。だから泣くな。

「……ごめん」

何も、悪くないよ。雨が流してくれるから、大丈夫。まだ息をしていられる。
瞼を閉じた。ついに彼の青を見ることは出来なかったから、次に目覚めた時は、もっとちゃんと伝えようと思う。

その腕は奪うばかりではないのだと。


▲ 滲む空にて


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