happy birthday!

!高専講師パロ



「何コソコソしてんだオマエ」
「ひえっ」

背後から突然かけられた声に縮みあがり、手にしていた段ボールを落としてしまった。

「ふ、伏黒さん? どうしてここに」
「いや職場だし」
「まだ体術の授業中じゃ……予鈴鳴ってませんよ。あ、もしかしてまたサボりですか?!」
「マジで俺のことなんだと思ってんだオマエは。んなもんガキ共が皆んなへばっちまったから切り上げたわ」

首の骨をコキッと鳴らしながら言う伏黒さんはまるで運動前のストレッチでもこなして来たような様子だ。悠仁くんと恵くん、野薔薇ちゃんの三人を相手にして汗ひとつかいていない。さすが天与の筋肉ゴリラと言うべきか、イヤそうじゃなくって。

「何運んでんだ?」
「あっ、ちょっ、見ないで!」

廊下に落とした段ボールを庇うように抱き寄せる。しかしタッチの差で中身を覗かれてしまった。
ジャージのポケットに手を突っ込んだ伏黒さんは腰を屈めるとその状態でフリーズした。視線の先には『本日の主役』帯から始まり部屋を飾る花輪だのクラッカーだのお祝い道具が詰め込まれている。

……バレた。ゴメン五条さん。

わたしは心の中で発案者に謝った。マインドが小学生男子の五条さんが悪ノリついでに伏黒さんの誕生日を祝ってやろうと言い出したのだ。顔面ケーキは僕がやるからナオは準備しといてね。あ、恵の分も数入れときなよ、日頃の鬱憤ありそうじゃん。そのほかは僕らの学生時代の残り使いまわせばいいっしょ、と。
要は甘党の自分はケーキを食べたいだけで面倒くさい部分をわたしに押しつける魂胆なのだろうが、祝ってやろう、の部分は一致していたので伏黒さん本人が授業している間に隠れて準備していたのだ。

「……なんだコレ」
「えーっと。あー、そうだ。今日のお昼なに食べます? 生徒たちも一緒にピザでも取ろうかって話してたんですけど伏黒さんもいかがです?」
「ピザ? なんでだよ急に」
「急にって……え?」
「どうせ五条の坊だろ。好きだなアイツ、寄せ集めてわちゃわちゃすんの」

アレ? 気づいてない?

「わりーけど俺今日昼であがりなんだわ。お先」
「そ、そんなこと言わずにお昼ご飯一緒に食べましょう!」
「うわっ、ひっつくなよ……」

身を翻した伏黒さんは本気で帰ろうとしている。
逃すまいと腕にしがみつくと、伏黒さんはダルそうに目を細めてわたしを見下ろした。

「俺ぁ大人数で集まんの嫌いだ」
「嫌いじゃなくて苦手なんでしょ」
「同じだろ。若いヤツらでやっとけ」
「……ほんとに気づいてないんですか?」
「ああん?」

緑色の瞳に疑念が浮かんでいる。この分だと本気でわかっていない。大晦日、年納めにピザとって皆んなで騒ぐイベントくらいにしか思っていないのだと直感した。
自分の誕生日なんてどうでもいい、伏黒さんはそういう人だ。これ以上言えばわたしたちの趣向がバレるのは免れないけど、他になんと言って引き止めたらいいのかわからなかった。

「伏黒さんがいないと意味がないんです」
「脅し文句にしちゃ熱烈だな」
「脅しって、ちがいますよ……。お祝いさせてください、あなたの誕生日」

仕方ないと判断して白状したけれど、言葉に込めた気持ちは本物だ。
わたしが言うと伏黒さんにしては珍しくきょとっとした後に、一瞬だけ、嫌いなものを口に入れたように渋い顔をした。

「誕生日って……俺のか」
「伏黒さんに言ってるんだから伏黒さんの、でしょ」
「んなもんどうでもいいだろ……」
「よくないです。あなたが生まれた特別な日です」

伏黒さんはいつも他人事だ。自分のこと、特に過去の話や未来の話になると途端に口調が漫然とする。性格は気紛れに違いないけど人付き合いは悪くなく、話題が現在軸だとくだらない無駄話にも付き合ってくれるのだが、それ以外だと無関心になるか、相手に適当に話を合わせてしまう。
気づいていた。そしてそのことに、わたしは勝手にさみしさを感じていた。
自分が生まれた日にさほど興味がないのも予想はしていたし、鬱陶しいと一蹴されるだろうと思っていたけれど、年に一度のこの日を特別なものだと喜びたい。
伏黒さんを好ましく想うわたしにとって、それは当然の感情なのだから。

「みんなも居ますから。ね?」
「……勝手にしろよ」

伏黒さんがため息をつくのを、わたしは満足して見上げた。
ぶっきらぼうな言葉で最大限に受け取ってくれたのがわかる。思わず顔がにやけてしまい、目敏く気づいた伏黒さんに「間抜けヅラしてんな」と馬鹿にされるのも気にならなかった。



五条先生が投擲したケーキは普通に避けられて後ろに控えていた虎杖に命中。



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