九十九の後輩とパパ黒

目が覚めた時にはすでに正午近かった。
カーテンの隙間から健全ともいえる斜光が溢れ、ベッドシーツの一部を照らしている。ナオは二日酔いのせいで鈍く痛むこめかみを押さえ、低く唸った。
冷蔵庫に未開封のミネラルウォーターが入っていたはず……。
ベッドから降りようとしてはたと気づいた。足が四本ある。
まだ寝ぼけているのだろうか、目を擦ってみるが視界は良好だ。この前洗濯したばかりのシーツが四箇所、棒を隠しているかのように盛り上がり、うち二本は自分の上半身と繋がっていた。ということは。

「……ヤッバ」

盛り上がりを先端とは逆方向に恐る恐る辿っていく。ナオの脚より太い。シーツの上からでもその逞しさが窺える。
やがて筋肉の鎧でも着てるのかと言いたくなる見事な肉体美を誇る背中と、寝息に合わせて穏やかに上下する黒髪を視界が捉えた。
肩を掴んで身体を反転させる。睡眠を邪魔されたことで眉を顰める大男は無視して、顔の全容を確認するべく両手で挟んで凝視した。
この顔。口元の傷。
視界に大写しした彼の顔は、頭の中に入れていたデータ上の特徴と一致している。

「こいつ……禪院甚爾じゃん」

自分で口にした名前の響きに血の気が失せた。
やってしまった。よりによって研究のサンプルに手を出してしまった。
現在海外にいるはずの九十九がゲラゲラと笑いながらこちらを指差す幻覚を見た気がして、頭を抱えた。



なぜか封が開いて中身が半分ほど減っていたミネラルウォーターを飲み干し、インスタント味噌汁に電気ポットで湯を注いでいると、背後で人の気配がした。
振り返ると寝室からのそりと甚爾が出てきた。「便所借りる」と寝起きの掠れた声が言うので案内してやろうかと半身を引いたが、勝手知ったる家とばかりに一人で廊下に消えた。
どうしてうちのトイレの場所を知ってるんだ。
初対面の人間が家の構造を知っているというのは違和感しかない。おそらく昨晩なんらかの出来事があったのだろうが、酒で記憶を飛ばしているため何も思い出せなかった。

「禪院さんも召し上がりますか」

戻ってきた甚爾に味噌汁入りのマグカップを差し出すと、無言で受け取ってくれた。
キッチン入り口に立ったまま、黒い双眸がこちらをじいっと見詰める。何かを探るような眼差し。怒らせるようなことしたっけと自問して、この状態がまさにそうかと自答する。

「昨晩のこと……なんですけど」
「おう」
「禪院さん、わたしに何かされませんでした?」
「熱烈に口説かれた。あとキスされた」

薄い唇が冒頭陳述するのをナオは黙って聞いていた。

「ベッドに誘われてシャツ脱がされて、俺に跨ったところでお前が糸切れたみてーに突っ伏して……」
「もういいです、顛末は理解しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「要約するとそんなところだな。それよりお前服着ろよ」

要約、という含みを持たせた言い方がおそろしい。
指摘されて初めて自分の格好を見下ろす。普段から家の中では薄着を好むのでスルーしていたが、確かにキャミソール一枚でうろつくのは体調に悪い。

「禪院さんこそ。いつまでも上半身裸でいたら風邪ひきますよ」
「お前さあ」
「大事な検体に何かあって怒られるのはわたしですから」
「……もうそれでいいわ」



続かない
このあととーじくんに振られます



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