青春アラカルト


・かっこいい直哉はいません
・学パロ(not高専)
・直哉・脹相→同級生、真希、野薔薇→後輩の平和な世界

直哉をギャグ的な意味で振り回したいなあと思いながら書きました。




【兄と弟】

「脹相待てやごらああああ」

怒声が廊下に響き渡った。騒ぎにつられたクラスメイトたちが窓際へと吸い寄せられていく。
「うわ喧嘩だ」「先生呼ぶ?」とざわつく声の合間に「またあの二人かよ」と呆れまじりの台詞が聞こえた。
うちの高校は比較的落ち着いた校風である。偏差値もそこそこだし部活にも力を入れているし、いわゆる不良とかヤンキーとかは少ない。大切な青春時代の三年間を過ごすにはそこそこ安泰の学校、のハズなんだけど。
喧嘩の絶えない問題児がうちの学年には二人いた。

「脹相いけ! 禪院ブッとばせ!」
「いや、あれは脹相が相手にしてないでしょ。禪院が追いかけて脹相はずっと逃げてるし」
「でもかなり距離が縮まってる……あっ? ちょ、禪院早すぎて見えなくない?」

次の瞬間、ドゴォッと派手な音が鳴り響き、クラスメイトたちが歓声にどよどよと沸いた。
そんな乱闘騒ぎを尻目に、わたしは箸を動かす手を休めずにもくもくと弁当を食べ進めている。見なくてもわかる。直哉と脹相が喧嘩して暴れまわっているのはいつものことだ。そして、

「おっ今度は殴り合いが始まったぞ」
「誰か止めろよお」
「むりむり。俺死にたくねーよ」
「ナオ! あの二人仲裁してこい」

このタイミングで話を振られるまでがいつもの流れだった。

「やだよ。巻き込まれたくないし」

廊下側から一番離れた窓際の席に座るわたしは、ウサギの形に剥かれたリンゴに箸を突き刺しつつ言い返した。
あの二人はとにかく厄介だ。どちらも体格に恵まれて、体力もあって、おまけに喧嘩が強い。
どちらかというと直哉の方が張り合ってるっぽいし、噂だと一度は脹相にボコボコにされたんだとか。負けず嫌いの直哉が突っかかっていくのはわかるけど、脹相との間に明らかな差があるのなら、抜け目ない直哉が繰り返し真っ向勝負なんて挑まないはず。
つまり、派手な喧嘩を起こす二人の実力はほぼ互角といったところで、そんな戦場に出ていくほどわたしはバカじゃない。

「だってナオ、禪院とよく喋ってるだろ」
「それはぁ、小学校が同じだったから。ってか幼馴染だからこそムリだと断じることができる、直哉って人の話聞かないもん」

ちなみに脹相とは同中だ。
いくら双方と接点があるとはいえノコノコ仲裁なんて入って行ったらこっちがボコボコにされてしまう。脹相はともかく直哉は女にだって容赦がない。

「本人たちの好きなようにさせるのが一番だと思うけど」

何か進展でもあったのだろうか、スポーツ試合の見せ所で観客席が沸くように「おおっ」とみんなの声がハモるのが聞こえた。



「すっごい顔だね」
「やかましい」

教室に戻ってきた直哉はギャグマンガのように右頬を腫らしていた。眉には深い皺が刻まれており絶賛不機嫌である。
いや、わたしのせいで不機嫌さが増したのか?
昼休みが終わってもなおざわつきの途切れない教室の中、直哉は荒い仕草で椅子を引くと、隣の席にどっかりと腰をおろした。

「毎日毎日よくやるよね。ト〇とジェ〇ーみたい。ホントは仲良いんでしょ」
「仲良く見えるとかナオちゃんの目も大概節穴やで。つうか怪我人目の前にして何ヘラヘラしてんねん。労わるとかないんか」
「ははあ、その冗談面白い」
「殺すぞ」

学ランを着た直哉の足がわたしの机の脚をガンと蹴った。ひえ、怖。

「今回はなんで喧嘩したの?」
「あー、なんでやったっけ。どうでもええことやった気がするねんけど」
「えっ、何それ。夫婦喧嘩みたい。いや兄弟喧嘩が近いのかな」

こういうやりとりをしているせいで直哉が喧嘩を始めたときの仲裁役として周囲に認識されている節があるけど、実際はそこまでお気軽な関係ではない。直哉はやられたら絶対にやり返す男だし、女にも容赦がないし、口出しすると言ってもわたしは基本的に禍根を残さない程度に留めている。対等なんてもってのほか。わたしの戦闘力(女子高生に戦闘力っていうのもいかがなものか)なんて直哉ひいては脹相に比べたらミジンコみたいなものだ。
とは言っても幼馴染特有のゆるい関係はほかのものには変えがたく、六、七歳からお互いのことを知っている直哉もわたしに対してはいささか棘が抜けるらしかった。

「だってほら、確か脹相って長男だよ。直哉は末っ子でしょ」
「ほんまくだらんこと思いつくんやな君の頭は。そんなこと考えてる暇があんなら保健室行って塗り薬か何か貰てきてくれん? キレーなお顔に痕残せへんやろ」
「直哉ってそんなにナルシストだったっけ……」

はよいけ、と手をシッシと振られ、わたしは仕方なく席を立った。
そろそろ先生戻って来るんだけどな、と乗らない気持ちのまま教室を出ようとすると、目の前の扉が勝手に開いた。そこにはくだんの脹相が立っていて、わたしは二度驚く羽目になる。

「脹相じゃん。何してんのこんなとこで」
「ナオ。いいところに。これを禪院に渡しておいてくれ」

投げて寄越されたのは手のひらに収まるほどの小瓶だ。全体的に茶色で中身の様子は見て取れないが、ひっくり返してみるとちゃぷんと液体の流動する音がする。

「なにこれ」
「薬」
「えっ?!」

用だけ済ませて自クラに帰ろうとする脹相の背中を見咎めた直哉の声が追いかける。

「なんや脹相君。俺の顔でも見に来てくれたん? さっき会うたばかりやのに熱烈で嬉しいなあ。おいこら待て、ちょこまか逃げとんとちゃうぞ」
「ちょちょちょ! そうじゃないよ直哉! これ!」

脹相から預かったものを慌てて直哉に渡す。
「あ?」訝しそうな表情でそれを受け取った直哉と二人で手元を覗き込み、顔を見合わせた。

「何やねんこれ」
「赤チンだ」
「あかちん……」

は、初めて見たわ!!

「なんだ? お前の家にはないのか? ありそうなのに」
「あらへんわ! 2020年には生産終了しとんのやぞ!」
「待てよ呪術の本編って」
「2018年じゃ!」
「メタ発言やめろ」

どこまでも取り乱さない脹相に冷静に突っ込まれた。
いやはや、殴りつけた相手にわざわざ薬まで届けるとは。好敵手なお兄ちゃんである。

「直哉ぁ、せっかくお兄ちゃんがくれたんだから塗っときなよ。キレーなお顔を傷物にしたくないんでしょ」
「ふざけるな俺はコイツの兄じゃない。が、お前の弟属性に免じて渡してるんだ。ありがたく思え」
「いるか。属性言うなキショいねん。鬱陶しいのは本物の兄さん方だけで十分や」
「そういや直哉のお兄さんたちって意外とブラコンだったよねえ」
「ブラコンの何が悪い。おいナオ」
「言う相手間違えたな……」



【嫌いとは言ってない】

二年と一年が合同体育しているグラウンドを、わたしは三階校舎の窓からぼんやりと眺めた。
器具の準備をしているらしく、ジャージを着た生徒が疎らな動きをしている。今後の運動に備えて大半が白の半袖だ。その中に見覚えのあるポニーテールと茶髪が並んでいるのを見つけた。

「いいなあ、真希と野薔薇。大きくて」
「態度が?」
「なんで直哉はそういう風にしか人を見れないかな。胸の話だよ」
「ナオちゃんかて人を下世話な目で見とるやん」

男顔負けのしたたかな性格に隠れがちで、なおかつ制服だと着痩せしていてわかりにくいけど二人ともプロポーションが良い。半袖だとそれがよく分かる。真希は巨乳、野薔薇は美乳だな。上から目線の男目線で評価しつつわたしは一人で頷いた。
隣の席で直哉は大して興味もなさそうにスマホをいじっている。存分に椅子の背もたれを活用しただらしのない座り方である。誰か後ろから椅子引いてくんないかな。

「わたしもあれくらい欲しい……」
「へえ、ナオちゃんでも気にするんや」
「当たり前じゃん。わたしだって女だもん、大きいのに憧れ」

言葉が詰まった。
胸に違和感。見下ろすと直哉がなんの有り難みもなさそうにわたしのささやかな膨らみを掴んでいた。

「んなっ、なおっ、何してんの!」
「ちっさ。申し訳程度の乳やん、これで女自称してんのウケるわ。ツバサちゃんのがまだあるな」
「誰よツバサって、元カノ?! セフレ?! 勝手に比べないでよ離してバカ! 女の敵! 直哉なんて嫌いだ!」
「俺かてペチャパイに興味あらへん」



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