新世界よりパロ3

どうしてこうなった?
わたしは冷静になろうとして頭を抱えた。
途端に狭くなった視界に、身に着けた短パンと、そこから伸びる自分の生足、硝子とお揃いで塗ったペディキュアの色が見えた。息を詰める。目に映るものすべてが生々しい。歯噛みしたい気持ちに囚われた。

「あまり硬くならないでくれ」

優し気な声にわたしは上体を起こした。斜め向かいで傑が小さく笑っている。ローテーブルに頬杖をつき、反対の手でスマホを持っている。わたしに話しかけるまで何か操作していたのだろう、画面が黒く染まるのが見えた。傑はスマホを丁寧な仕草でテーブルの上に置いた。
傑が近づいてくるのでわたしは無意識に隣を空けた。体重を移動させるとぎしりとスプリングが鳴った。どうしてこうなったんだっけ――何度目になるかもわからない逡巡を繰り返しながら。
ここは高専男子寮、同級生である傑の自室だ。硝子や悟を交えて遊びに来たことは何度もあるが、こうして二人だけで会うのは初めてだ。
傑が腰を屈める。ベッドが二人分の重みでさらに軋んだ。隣に座ったのは遊び仲間の同級生だ。それなのになんでこうも緊張するのだろう。わたしは傑から視線を逸らした。

「緊張しなくても大丈夫」
「……なんかそれうさんくさいな」
「酷いな。そっちから押しかけてきたくせに」
「押しかけてなんか」

ない、と言えず口を噤む。
確かにここへ来たのは自分の脚だ。誰かに唆されたわけでも傑に誘われたわけでもない。
だけど。

「まあ、いいけどね。君が良いってんなら遠慮なくいただくつもりだし」

傑の言葉は最後通告のようだった。
教室でふざけて席を取り合うのとは訳が違う。
隣に座ってわたしの顔を覗き込む傑は、初めて見る男の人の顔をしてる。

「……ん」
「理由は聞いたほうがいいのかな」

傑の手がわたしの髪を撫でた。何度かそうした後、首筋に流れていた髪をゆっくりと掻き分けて耳へとひっかける。
理由。わたしが傑の部屋を訪れた理由。
息づかいをすぐ近くに感じた。傑の唇が私の唇を掠め取る。乾いている。さらりとしていて、心地が良かった。
鼻先の触れる距離で、傑は質問を被せた。

「君は硝子が好きでしょ。で、本命は悟」

違う?と語りかける傑の表情は、冷徹も揶揄も含んではいなかった。
明日の授業は変更になったよ。そんな事務的な連絡をするような、淡々とした響きがあった。事実を述べているだけ。わたしの中にある感情を的確に。意図を探るように傑の瞳を見た。いつも通りの傑だ。善いも悪いも、呆れも憐憫も抱いている様子はない。
「うん、好きだよ」傑相手に隠し通せる気もせず、正直に吐露した。「悟が好きなの」
わたしの告白に、傑はくすりと笑った。

「それで、どうして悟ではなく私に抱かれようとしてるんだ?」
「だ……っ、すぐる、他に言い方ってものが」

言葉は続かなかった。先ほどとは違い、傑に強引に唇を奪われる。肩を抱かれて身動きがとれない。腕力も肩幅も、触れている手のひらの骨ばった感触も、なにもかもが硝子と違う。これが男のひと。力強さに屈服したように、わたしはされるがままに傑と唇を合わせた。
口の中に傑の舌が侵入してくる。あたたかくて脳がしびれる。口元に唾液が伝うのも気にせず夢中になっていると、傑がゆっくりとわたしの肩を押した。寝具に寝かされる。傑が覆いかぶさってくる。

「気持ちいいこと好きなんだね?」
「すき……」

こくこくと頷くので精一杯だった。
いい子だね、と傑が低く囁く。



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