五条(父)と中学生(娘)・2

「おはよ虎杖」
「はよ。ところで何で俺のこと呼び捨てなの?」
「おっす二人とも」
「おはよーございます野薔薇さん」
「ほんとに俺だけかよ!」

待ちぼうけしていた虎杖に声をかけると機嫌を損ねたように口をへの字にする。
高専前で二人並んで駄弁っていると、しばらくして野薔薇さんがやってきた。手に野菜ジュースを持っている。どうやら朝ご飯の代わりらしい。

「あれ? 恵は?」

虎杖と野薔薇さんが揃えばだいたいは居る人物の姿がないことに気づいてわたしはあたりを見渡す。
しかしいくら探してもツンツン黒髪は見当たらない。

「知らん。寝坊じゃね?」
「あんた部屋隣なんでしょ。声かけてくればよかったじゃん」
「俺はあいつの母ちゃんかよ」
「えっ。虎杖と恵って隣部屋なの? 仲良すぎてキモイ……」
「好んで隣になったんじゃねえよ。そもそもこの人員配置はお前の父ちゃんの采配で……あっ、おーい伏黒。遅刻」

そんなことを言いながらも真っ先に恵に気づいた虎杖が手を振る。
つられて視線を追うと、寝起きであろう重い目蓋をした恵が男子寮の方向から歩いてくるのが見えた。走る気配はない。
恵がマイペースに合流するまでたっぷり三人で待つこと数十秒。「おはよ」恵を見上げれば「何でお前がここにいんの?」と辛辣な台詞が返ってきた。

「そりゃあわたしもゆくゆくは呪術高専に入学するんだから。近い将来先輩になる人達と現場の見学を――」
「虎杖、後ろ向け」
「あ?」
「アッ!!」

言われた通りに虎杖がその場で半回転する。
恵は虎杖のパーカーに手を伸ばし、服の皺から影をつまみ上げた。
影は小振りな雀の形をしている。

「これ式神だろ」

恵の指から逃れようと黒い雀は羽を広げて暴れるが、あのコンパクトサイズの式神がいくら暴れても無意味だ。それは召喚したわたしもよく知っている。

「こんなもん虎杖に仕込んで何するつもりだったんだよ」
「わ、わたしじゃないもん」

じとっと睨まれ肩を竦めた。しらばっくれてみるけど恵にはバレバレのようだ。
サイズ故に恵の式神である玉犬のように戦闘には向かない。というか訓練も施されていない。わたしがわたしのために会得した、追跡用の式神である。

「へえ。ナオって式神使いなんだ。知らんかった」
「ほんとは父さんに禁止されてるんだけど。最近なんて高専の話題出すだけで怒られるんだもん」
「五条先生がねえ……」

恵が手を開くと雀がぱっと飛び立った。虎杖の頭の上に乗り、恵に向かって威嚇するようにピィピイと喚く。
「はっ、嫌われてやんの〜!」と虎杖が指差してげらげら笑う。

「呑気だな。お前、尾行のだしに使われようとしてたんだぞ」
「なっはっはっは……ハッ?! ヒデェ!! お前いい加減にしとけよ俺一応年上だからな?! ほら言ってみ、虎杖センパイって。せーの!」
「絶対呼ばん」
「クソがー!」
「うっさいな揃ったから任務行くわよ。ナオは留守番ね、連れてくと五条先生がやかましいから」

こうして現場へと出向いた先輩(予定)達をわたしと雀は今日も今日とて見送るのであった。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -