「この状況で好き嫌いするなんてあなたも大したものだね」

ハンジが呆れて溜め息つくのがわかった。顔を見ずとも。
巨人フリークな面さえ目をつぶれば案外常識人である調査兵団の同期は、わたしの代わりに干し肉を摘まんで口に放り込んだ。

「おいしいのに。貴重なタンパク源だ」
「いらない。ハンジ、わたしの分まで食べてくれていいよ」
「そうは言ってもなあ。これはあなたの食事なんだから。他の皆は配給されてすでに食べた。こんな土地だ、取り分は守らないと」
「嫌いなんだもん。パンだけでいい」

木目のテーブルの上、皿をハンジのほうへと押しやった。コッペパンだけは手元に残した。パンだけは食べられる。食べられる、といっても決して好きではないけれど。
ハンジは腰に手をあてて、椅子に座るわたしを見下ろした。まったく子どもなんだから。そんな言葉が暗に聞こえてくるようだった。
――いい。別に、構わない。

「まだ食ってねえのか」

扉の奥から現れたリヴァイがわたしの様子を見るなり悪態をついた。
とうに夕食を終え湯あみまで済ませたらしいリヴァイは、わずかに髪を湿らせている。さすがにある程度乾かして整えてはいるようだけれど、いつもよりしっとりしている髪型は体格と相まってか幼く見える。

「もう十分背丈成長したし。リヴァイはもうちょっと食べたほうがいいんじゃない?」
「餓鬼みてぇな言い訳しないでとっとと食え。その貧相なのは飾りか」
「何の話だよ」
「察しろ」

リヴァイはわたしの上半身、殊更胸のあたりを一瞥すると、あとはどうでもいいというように椅子に腰をおろした。
手を口にあててハンジはくつくつと笑う。

「リヴァイの言うことも一理あるんじゃ?」
「馬鹿ハンジ。女の敵だ」
「そう思うならいい加減、諦めて食べなよ」
「やだ」
「新兵より手がかかるんだけど。これでリヴァイ、ミケに続く手練れの兵士なんだからタチが悪いよ」

トントン、と扉をノックする音が聞こえた。こんな時間に誰だろう、わたしとハンジは顔を見合わせて、それから同時に扉を見た。
「失礼します」の挨拶とともに食堂に入ってきたのは、盆を手にした104期新兵のエレンだ。

「兵長、紅茶もってきました……って、え? ナオさん、まだ食い終わってなかったんですか」
「そうなんだ。 もう困っちゃってさ。エレンもなんとか言ってやってくれよ」
「いやちょっとそれは。ナオさん先輩ですし」
「関係ねぇ。めんどくせぇから頭掴んで食わせてやれ。エレン、これは命令だ」
「ちょ、無理ですよ!」
「あああ紅茶がこぼれる」

ハンジの横顔を盗み見る。燭台に照らされた明るい肌が浮き上がる。それだけで満たされる。おなかいっぱいだ。何もいらない。
あなたの手を煩わせていたいと口にすれば今度こそ「あなたは子どもだね」と呆れるだろうか。

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