完結
 サッカーの方が忙しいようで、郭くんは最近下校時間になるとすぐに帰るようになった。郭くんの生活は充実しているようで、以前よりも随分生き生きとした顔をしているように思う。
 郭くんが忙しくなればなるほど彼と会話する機会は減る。少しだけ、寂しいと思った。


 十二月に入り、寒さは増しコートとマフラーは欠かせない時期になっている。マフラーを整えて部室のドアを閉じる。もう外は真っ暗で、月が輝いていた。

 年が明けたら、郭くんはサッカーの試合があるらしい。
 サッカーに詳しくない私は今までテレビ中継される試合にもあまり興味はなかったが、郭くんを意識し始めてからは、気付いたら試合が終わるまで見ていることが増えていた。私がサッカーを見る理由はスポーツを純粋に楽しむ人のものとは違うから、郭くんとテレビ中継していた試合について話すことはない。ただの自己満のようなものだった。彼が熱中するものがどんなものなのか知りたいという不純な感情があった。
 確かにサッカーを見ている間、私はサッカーに夢中になっていた。楽しいと思える試合はいくつもあったし、悔しいと思う時があるほど夢中になる試合もあった。けれども試合を見る導入としての感情が綺麗なものではないような気がして、いつだって彼にサッカーを見ていることを話すことはなかった。


 夜の静かな雰囲気が案外好きで、寒いけれども冬独特の空気が好きだった。一つ大きな深呼吸をして、ゆっくりと一歩一歩確認するように歩いていく。
 中学に入った頃は歩きにくかったローファーも、もう自分の足に合ったものになっていることに今さらではあるが気付いた。それがなぜかどうしようもなく誇らしかった。おかしなことかもしれないが、最初はなんだか制服を着てローファーを履く自分の姿を見るのがどうも恥ずかしかったのだ。制服は着せられている感があるし、大きいしぴっしりとしているし、見ればすぐわかる新入生であったからだ。どんどんと変化していく自分の姿を見るのが嫌だったわけではないが、恥ずかしかった。今思うと照れくさかったのだ。もう一度、確認するように足を踏み出していく。

 息を吐くと、白い息がふわっと現れた。郭くんの誕生日はわからないけれど、彼に似合う季節は冬だと思う。きっと、それを本人に言っても意味がわからないというような顔をされるだろう。私も、なんとなくそう思っただけなのだけど。

 あぁ、久しぶりに郭くんの笑った顔が見たい。優しいあの顔が見たい。
 どんどんと溢れようにそんな感情が出てくる。私は彼を尊敬していて、そしてとてもとても彼が好きなのだ。月を見て、月の優しい光を見るとまたそんな気持ちが溢れ出てくる。

 コートの裾から出るスカートを揺らして、誇らしく思うローファーで月明りの優しい光に照らされた道を歩いた。

20140307
20160928再修正

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