企画小説

 大会がないからといって部活がないわけではないが、それでも準太に少し余裕が出来る冬。久しぶりに買い物に出掛けようと誘うと、準太は快く了承してくれた。


 幼馴染の準太と出掛けるのはいつぶりだろう。学校が一緒なので特別久しぶりだという気持ちではないが、スケジュール帳を確認すると数ヶ月ぶりだとわかって少し驚いてしまった。中学生の頃はもっと一緒に遊んだりしていたなと思い出す。

 準太が野球部で活躍するのは嬉しいし応援したい。でも、やはり小さい頃からよく遊んでいた仲である。定期的に遊びたいとも思うのだ。野球を優先するのは当たり前だし、休みたいなら文句は言わない。けど、もしも一緒に出掛けようと誘った時に彼がOKをくれたなら、うんと楽しむようにしている。


「ねぇ、準太。これどっちが可愛いと思う?」
「名前は、こっちかな」

 アクセサリー売り場に立ち寄り、ふとそんな質問をしても準太は嫌な顔もせずに私に似合いそうなネックレスを指差した。
 どちらも可愛いな、ちょっと気になるな、くらいの気持ちで準太に聞いてみたのだが、準太がそう言うとついつい彼が選んだ方のものが欲しくてたまらなくなってしまう。準太が選んだ物を取り、どうしようかなと少し考える。値段を見ると想像していたよりも手頃な価格だったことに驚いて、これならいいかとレジへと持っていくことにした。

「買うの?」
「うん。どっちか買おうと思ってたの。準太が選んでくれたし、これに決めた。買ってくるから待っててね」
「わかった」

 レジで会計を済ませ、準太の下へ駆け寄ると嬉しそうだと笑われた。嬉しいに決まっている。次準太と遊びにいける時がきたらこれをしていこうと考えていると準太はなんでもないように「今度遊びに行く時はそれしてきてよ」と言った。

 スポーツショップへ行ったりカフェに行ったりした後、レコードショップに二人で入った。クリスマス特集として世界各国のクリスマスソングが視聴できるようになっているようだ。
 ヘッドホンを取って再生ボタンを押すと、何度か聞いたことのある曲が流れてきた。

「今聴いてる曲、よくテレビとかでも流れるから耳にするとクリスマスだなーって思うの。でも洋楽だから歌詞がわからないんだよね」
「気になるなら調べればいいだろ」

 ヘッドホンを一度外して隣にいた準太にそう言うと、少しだけ意地悪な表情をした準太はそう笑う。
 準太に一緒に聴くかと尋ねると、少し肩をすくめて「いいの?」と聞いてきた。いいから言っているのに、と思いながら二人で聴けるようにヘッドホンを持ち替える。どうぞと言えば、準太は私に近付いて顔を近付けるために少し屈んだ。
 彼が近付いた時、準太がどうして「いいの?」と尋ねた理由がわかった。思っていた以上に距離が近いのだ。考えればわかることなのだが、私はついついいつものようにそんなことを言ってしまった。

 すぐ近くにある準太の顔を気にしないようにして目を閉じて耳を澄ますと、さっきまで聞いていた曲が終わり、次の曲へ移った頃だった。
 洋楽なため相変わらずタイトルも歌詞もわからないのだが、流れてきた曲も聴いたことのあるもので「あっ、これも知ってる」と言えば隣にいた準太は小さく「ああ」と頷いた。

「これもよくクリスマスの時期になると町中で流れてるよね。明るい曲で――」

 これも洋楽だからわからないなと言った時、準太はヘッドホンを抑えている私の手を覆うようにして掴み、私の耳からそれを外した。驚いて準太と彼の名前を呼ぶと、彼は何かを考えたように視線を外した後、私に視線を戻して小さく笑った。

「これはさ、沢山のプレゼントが欲しいわけじゃない。欲しいのはあなただって曲だよ」

 準太は私の耳に少しだけ顔を近付けてそんなことを言ってきた。準太の声はいつもよりも甘ったるくて、なんだか耳元がくすぐったい。胸のあたりがどきどきする。
 彼の言葉と彼の匂いに驚いて思わず私は俯いてしまった。

「英語の授業の時にもうすぐクリスマスだからって先生がいろいろ言ってた。案外そういうのわかるとさ、ドキドキしない?」
「……する」

 準太はヘッドホンを元あった場所に置いて停止ボタンを押す。

「さぁ、帰るか。このままだと遅くなりそうだ」

 準太は私の手を取って歩き出した。
 さっきの準太との距離だとか彼の声だとか、そういうのを思い出してしまって結ばれている方の指がぴくりと反応してしまう。準太はそれには何も言わず、ぎゅっと強く手を握ってきた。

 駅に行くために町中を歩いていると、冬の寒い夜の中で準太と私の白い息がよく見えた。準太の吐く息は白いけれど、髪から覗く耳は少し色付いている。
 彼の隣を歩いて準太を覗き込むようにすれば「名前顔真っ赤だ」と言われてしまう。準太もだよと反論すれば「だろうね」と困ったような顔をした。

「慣れないことはするもんじゃないな」
「お互い顔真っ赤とか、ちょっとね」
「知り合いに会ったら絶対変に思われるな」
「わー、どうか会いませんように」

 顔を真っ赤にして手を繋いでいる所を誰かに見られたらどうしよう。
 もしも見られて、質問された時に準太はなんて答えるのだろう。私は、どう返すだろう。
 誰にも会いませんように。そう思いながら、そんなもしものことを想像してしまう。隣を歩いている準太を見れば未だに色付いた耳と頬が見えた。


▽クリスマスソング「70000打&クリスマス企画」
20161203
20161225 修正
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