企画小説

 サンタやトナカイ、雪だるま。玄関にそういうクリスマス関連の雑貨が置いてあるのを見つけて、名前は一人静かに笑った。これはきっと、彼の趣味ではないだろう。彼の家族が飾ったのだろうが、この可愛い雑貨が飾られている玄関を出て、彼が毎日学校に行っているのだと考えると、可愛いと思ってしまったのだ。
 玄関の靴箱の上には可愛い雑貨が丁寧に並べられており、トナカイや雪だるまがにこりと笑っている。その中でも一番目立つのが大きなお腹に白いひげのサンタクロースであった。目は優しくて大きな袋を持っている。飾られているものの中で、名前が一番可愛いと思ったのはこのサンタクロースのおじいさんであった。

「何見てんだ?」

 少し顔を近付けてサンタクロースを見ていた時、名前は急に声を掛けられた。驚いて身体がぴくりと動いたのを見られて、少し恥ずかしくなる。

「どうしたんだよ、そんなに不思議なもんじゃねぇだろ」
「このサンタ、すごく可愛いなって」
「そうか? よくわからないが……」

 名前は食満留三郎の家に来ていた。同じ部活の留三郎と買い出しに行くことになったのだが、留三郎は学校と目的地の中間地点にある自身の家に寄りたいと言い出したのだ。借りていた図書館の本の返却日が今日だったらしく、昼休みに図書委員の中在家長次に今日までに返却してくれと言われたらしい。

 寒いからリビングに行くかと名前は言われたが、男子の家に行ったことがなかった名前は、その提案をやんわりと断り玄関で待っていると言った。
 名前と留三郎は付き合っているわけではないが、お似合いだとよく言われる間柄である。名前は留三郎に好意を抱いていたが、数ヶ月前に先輩が引退し、皆で後輩たちを引っ張っていこうと話し合ったことを思い出しては、今はまだ、恋人になるより部員として支え合いたいと考えていた。

 実は、玄関に入った瞬間から鼻をくすぐる匂いに心臓がどきどきとうるさいのを気付かないふりをしてサンタクロースを見ていた名前であったが、留三郎の家にいるという事実がどうしても頭から離れなかった。
 隣を歩く時や部活でミーティングをしている時に、彼の匂いに気付いて胸が高鳴ることが今までにも何度かあった。だから、玄関に入った瞬間に気付いたその匂いに、名前は自分が留三郎を好いていることを改めて認識させられた。

 サンタクロースが着ていた服と同じくらい頬が赤くなっていたらどうしよう。
 名前は本を鞄の中に入れている留三郎に気付かれないように自分の頬を触る。やっぱり熱いなと名前は思い、より恥ずかしくなってしまった。

「よし、行くか。寄ってもらって悪かったな」
「ううん、大丈夫だよ」
「長次に怒られるからな。……っと、ほら、わざわざ寄ってもらったからこれやるよ」

 そう言って、留三郎はサンタクロースの顔が描かれたアイシングクッキーが入った袋を名前に渡した。

「母親がさ、最近こういうのにはまってるらしくて定期的に作ってるんだよ。俺はあんまり食べないから名字が食べてくれ」
「食べるのがもったいないよ、これ」

 食満くんは物を直したり作ったりするのが得意だけど、もしかしたら彼の家族もそうなのかもしれない、と名前は思った。
 可愛らしいサンタのクッキーを見て留三郎に礼を言う。割れないといいなと思いながら鞄に入れた。

「でも、可愛いからって食べないのはもったいないもんね」
「そんなたいしたもんじゃないだろ」

 笑いながら留三郎はローファーを穿く。壁に手をついて少し下を向く留三郎の耳はいつもより少しだけ赤かった。


▽サンタクロース「70000打&クリスマス企画」
20161122
20161225 修正
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