企画小説
 喧嘩をした。いつもなら避けられるはずのものを避けなかった。あいつの顔を見て、くのたまであれ、こんなことをしているのだから私はこれから一生こいつとは友達でいれても、恋人にはなれない関係なんだと改めて実感した。少し歪んだあいつの顔を見た時、ざまーみろと思った私には既に本当にあいつを男として好きだったか、それとも友達として好きだったのかわからなくなっていた。

 喧嘩しても、次の日には何もなかったように会話が出来る。その関係は兄妹のようなものに似ていた。私はいつも、たった一言、恥ずかしそうにすまなかったなと言われるだけで別に気にしていないと笑えるのだ。
 怪我はどうかと聞かれて、平気と答えたが実際は腕の辺りは痣が出来てた。別に気にしない。別に平気だ。ただ、やはりなんだか少し悲しかった。


「腕、痛いんじゃないですか」
 泣きそうな顔をした、左近に声をかけられた。今回ははやいな、そう思った。
 いつも彼と会う時には私は怪我をしていて、そして泣きそうな左近に手当てしてもらうのだ。どうしていつも左近なのか、私にはわからなかった。それでもいつも逃げないでと言われるように着物の袖を掴まれて、私を見上げる瞳を見ると嫌なんて言えなくなってしまうのだ。

「別に、ほっといても治るんだけどね」
「治療することによってほっとくよりもはやく治りますよ」
「はーい」

 いつだって同じようなやり取りを繰り返す。少しだけ震えた手が私の腕へと触れる。くすぐったい。

 左近の青い制服と私の桃色の制服はなんだかとても不思議な組み合わせだと思った。保健委員の左近。私はそれしか知らない。いつだって出会う時は私を治療する左近だ。包帯を持ったり薬を持っている左近。歳も授業も違うのだから別におかしくはない。

「どうしていつも左近なんだろうねぇ」
 そう呟けば、一瞬止まる左近の作業。そしてゆっくりと私の方を見た。
「わ、わかりませんよ」

「名字先輩。怪我、もうしないでくださいね」
 いつも最後にそう言われる。しかしその言葉を言う時の左近の顔はひどく悲しそうなのだ。

恋の色は何色(10000hit企画)
20130828
20150510 修正
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